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得挙
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えあ
油断せる貫一が左の
高頬を平手打に
絶か
吃すれば、
呀と両手に痛を
抑へて、
少時は顔も
得挙げざりき。蒲田はやうやう座に
復りて
枕をも
得挙げざりし病人の今かく
健に起きて、常に来ては親く慰められし人の
頑にも強かりしを、
空く
燼余の断骨に
相見て、弔ふ
言だにあらざらんとは
彼は
唇の寒かるべきを思ひて、
空く
鬱抑して帰り去れり。その言はざりし
語は
直に貫一が胸に響きて、彼は人の
去にける
迹も、なほ聴くに
苦き
面を
得挙げざりけり。