往還ゆきかえり)” の例文
戦地や大本営に往還ゆきかえりの日本新聞記者や他の社の従軍記者なども時に病床を見舞って自由に談話を交換するようになった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
貧しい町を通って、黒いひげの生えた飴屋あめやに逢った。飴屋は高い石垣の下で唐人笛とうじんぶえを吹いていた。その辺は停車場に近い裏町だ。私が学校の往還ゆきかえりによく通るところだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ああ、御苦労様——松明たいまつですか。」「えい、松明でゃ。」「途中、山路で日が暮れますか。」「何、帰りの支度でゃ、夜嵐よあらし提灯ちょうちんは持たねえもんだで。」中の河内までは、往還ゆきかえり六里余と聞く。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君、こういう光景ありさまを私は学校の往還ゆきかえりに毎日のように目撃する。どうかすると、大人が子供をめがけて、石を振上げて、「野郎——殺してくれるぞ」などと戯れるのを見ることもある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは余の学校の保証人栗生くりふ氏は古白君の姻戚で、古白君は帰郷の往還ゆきかえりによくその家に立寄ったからであった。ある時は古白君と連立って帰郷し、帰路大阪へ立寄って文楽ぶんらくを一緒に聞いた事もあった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
学校の往還ゆきかえりに——すべての物が白雪におおわれている中で——日のあたった石垣の間などに春待顔な雑草を見つけることは、私の楽みに成って来た。長い間の冬籠ふゆごもりだ。せめて路傍の草に親しむ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)