往手ゆくて)” の例文
その時、往手ゆくての林の中から、いかにもあわただしく転がり出して、こけつまろびつ、こちらへ向って走りきたる二つの物体がありました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
友は往手ゆくてを指ざしていふやう。かしこなるが我が懷かしききたなきイトリの小都會なり。汝は故里の我が居る町をいかなる處とかおもへる。
そこへフランスの兵が来掛かった。その連れて来た通弁に免状の有無を問わせると、持っていない。フランスの兵は小人数なので、土佐の兵に往手ゆくてさえぎられて、大阪へ引き返した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、殿しんがりとして後ろにやや離れていたお角さんを別にして、一行の者が往手ゆくてをのぞんで立ちすくんでしまいました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
往手ゆくてのかたに稍〻大なる一窟あり。されど若し舟にさをさしてこれに入らんとせば、帆をおろし頭を屈するも、猶或は難からんか。かぢ取りの年わかき男のいふやう。これ魔窟なり。
往手ゆくてと左右の草原から、沼、橋、森蔭をまで、隈なく見透さんとした身構えで歩んでいるのであります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
往手ゆくては枯枝や、蜘蛛くもの巣、それに足許に竹の切口や、木の株や、凹みなどもあって、危ない。ほとんど昼なお暗い、八幡やわた知らずの藪のようになって、さしものお婆さんも少しひるんでいる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)