彼人かのひと)” の例文
彼人かのひと御安きことなり、早速下田なる母の元に申しつかわすべし、最早もはや旅人宿も廃業し父も早く死したれは、果して存在しおるや否や受合い申さずと語られ候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さては客来きやくらいと言ひしもいつはりにて、あるひは内縁の妻と定れる身の、吾をとがめて邪魔立せんとか、ただし彼人かのひとのこれ見よとてここに引出ひきいだせしかと、今更にたがはざりし父がことばを思ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どうかと一言ひとこと森成さんに余の様子を聞いていた彼人かのひとの様子を思い出した。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただほうきを握りて立ち寄れば彼人かのひとは邪魔にならぬよう傍に身をそばめ申し候位にて、さらに異状も認め申さず候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
何処いづくにか潜めゐる彼人かのひとの吾が還るを待ちてたちまち出で来て、この者と手をり、おもてを並べて、可哀あはれなる吾をば笑ひののしりもやせんと想へば、得堪えたへず口惜くちをしくて、如何いかにせばきと心苦こころくるしためらひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
最早当時の名主も死し自分父も死したれば、下田にて彼人かのひとの事を知るもの一人もなかるべしとの言葉にて、小生も下田港へ行くことはそのまま見合わせ申し候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)