廃屋はいおく)” の例文
旧字:廢屋
戸山ヶ原の廃屋はいおくの捕り物があってから二時間ほどのち、警視庁の陰気な調べ室で、怪盗二十面相の取り調べがおこなわれました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手入れをせぬのがかえって風趣を増して見せる茶寮風の下屋敷、今は廃屋はいおくにしてありますが、元は尾州侯のまま見えた園亭えんていに、近頃は誰か住んでいる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母屋おもやと覚しい建物の所まで行って見ると、そこも今は廃屋はいおくになっているらしく、格子こうしが固くとざしてあって、夕ぐれであるのに一点のも洩れてはいない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いくども呼鈴よびりんをおしましたが、誰れもドアを開けにきません。二階のほうを見あげてみますと、どの窓も、しっかりと鎧扉よろいどがとざされ、廃屋はいおくのように森閑としずまりかえっています。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
南瓜畑かぼちやばたけの中を腰のあたりまでかくしてかさかさと音をさせながら前進して行く。廃屋はいおくの一つを越え、さらにもう一つの廃屋を通りすぎる。だんだんさびしさが増し、神経がいやにとんがる。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまここの別院は廃屋はいおくも同然でつかっていない。——しかるに、旧役部屋らしい一室にふたりは対坐したのである。なにか極密な打ちあわせでもあるらしい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)