庇間ひあわい)” の例文
湯は、だだっ広い、薄暗い台所の板敷を抜けて、土間へ出て、庇間ひあわい一跨ひとまたぎ、すえ風呂をこの空地くうちから焚くので、雨の降る日は難儀そうな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明智はその石垣を攀昇よじのぼって、板塀と土蔵との庇間ひあわいの薄暗い中へ入って行った。五六間行くと突当りになってそこに別の塀が行手をふさいでいる。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丁度道了権現どうりょうごんげんの向い側の、ぎっしり並んだ家と家との庇間ひあわいを分けて、ほとんど眼につかないような、細い、ささやかな小路のあるのを見つけ出した時
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こゝのうちも店さきを一間二尺ほど切り下げられるんださうで、両隣との庇間ひあわいへ杭を打たれたんです。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
隣家の土蔵との庇間ひあわいから、すべり入って、暗がりを、境の板塀をすと、奥庭——この辺によくある、大店おおだなの空家を買って、そのまま、米問屋をはじめたわけなので
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その庇間ひあわいのような所にそういう路次の入口があり、時にはその入口にちょっとした潜り門のようなものが附いていて、奥の長屋に住んでいる人々の表札が並べて掲げてあることもある。
蒸々むしむしと悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児みどりご泣音なくねも沈み、鶏のさえ羽叩くにものうげで、庇間ひあわいにかけた階子はしごに留まって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが一体に妖婦の眼隈くまどりの様に艶かしくも黒ずんで、明るい所と云っては、絶壁と絶壁との庇間ひあわいの細く区切られた空、それも平地で見る様な明るいものではなく、昼間も夕暮時の様に鼠色で
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)