幾層倍いくそうばい)” の例文
身も心もきっと蠍の様に醜怪な獰悪どうあくやつに違いないとは想像しても、そいつの正体がまるで分らないものだから、目に見える蠍などよりは、幾層倍いくそうばいも気味悪く恐ろしく感じられた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こういう大大名おおだいみょうのうしろだてを持っている彼らのかたき討よりも、無名の匹夫ひっぷ匹婦ひっぷのかたき討には幾層倍いくそうばい艱難辛苦かんなんしんくが伴っていることと察しられるが、舞台の小さいものは伝わらない。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また吾等われらかしらうへ大空おほぞらたか鳴響なりひゞくあの奏樂そうがくも、雲雀ひばりこゑではいとはう。にたいよりも此處こゝたいが幾層倍いくそうばいぢゃ。さ、よ、きたれ、よろこんでむかへう! それがヂュリエットののぞみぢゃ。
だが、見物たちよりも、幾層倍いくそうばいの驚きにうたれたのは、本人の江川蘭子であった。夢中に歌いつづけていた時、突然、立っている床が、足の下から消えてゆくような衝撃を感じた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)