巉岩ざんがん)” の例文
背後は嶮山左右は巉岩ざんがん、そうして前は大海です。空には月も星も無く、嵐に追われる黒雲ばかりが海の方へ海の方へと走って行くばかり、真に物凄い場所でした。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨日で辟易へきえきした幔幕まんまく、またぞろ行く手をさえぎる、幕の内連が御幕の内にいるのは当然だ、と負け惜みをいいつつ、右に折れ、巉岩ざんがんにて築き上げた怪峰二、三をすぎ、八時
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
そこにそばだっている鷲峰山は標高はようやく三千尺に過ぎないが、巉岩ざんがん絶壁をもって削り立っているので、昔、えん小角おづぬが開創したといわれている近畿きんきの霊場の一つである。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
岩魚の寝入っているのも見物したいが夜中に巉岩ざんがんを蹈む勇気もなくて行かなかった、小一時間も過ぎると人夫が帰えって来た、明日の仕度もあるから喰うだけ獲て来たというて
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
花がひらくのと同じで、万象の色が真の瞬間に改まる、槍と穂高と、兀々ごつごつした巉岩ざんがんが、先ず浄い天火に洗われてかたちを改めた、自分の踏んでいる脚の下の石楠花しゃくなげ偃松はいまつや、白樺のおさないのが
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
大同ダムでき止められて、本来の懸崖の三分の一以上、二百じんも高く盛りあがったその水際みずぎわには、すなわち現実におけるうおは緑樹のこずえにのぼり巉岩ざんがん河底かていの暗処に没して幽明ゆうめいさらに分ちがたい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)