尺寸せきすん)” の例文
二十五年第四高等中学校教授ニ任ゼラレ、以テ今ニ至ル。余ヤ菲才ひさい浅学ニシテ府県ニ文部省ニ奉職シ育英ノ任ニむさぼリ、尺寸せきすんノ功ナク、常ニソノ職ヲむなシクセシコトヲはずのみ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
来る人も往く人もただまれて通る。足を地に落す暇はない。楽に踏む余地を尺寸せきすんに見出して、安々とかかとを着ける心持がやっと有ったなと思ううち、もううしろから前へ押し出される。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水行くほかに尺寸せきすんの余地だに見出みいだしがたき岸辺を、石に飛び、岩にうて、穿草鞋わらんじり込むまで腰を前に折る。だらりと下げた両の手はかれてそそぐ渦の中に指先をひたすばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さてこの大空大地たいくうだいちを製造するために彼等人類はどのくらいの労力をついやしているかと云うと尺寸せきすんの手伝もしておらぬではないか。自分が製造しておらぬものを自分の所有とめる法はなかろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)