寡言かげん)” の例文
師は学生の頃は至って寡言かげんな温順な人で学校なども至って欠席が少なかったが子規は俳句分類に取りかかってから欠席ばかりしていたそうだ。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一族のうちでは、もっとも寡言かげんだが重厚な人物といわれる南江備前守正忠に、正成のおい、楠木弥四郎もついて行っている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は食卓に坐りながら、言葉を惜しがる人のように、素気そっけない挨拶あいさつばかりしていました。Kは私よりもなお寡言かげんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俳句は寡言かげんの詩である。言い尽さざる詩である。そのために、解するものにって如何にも解されるものである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
要するに婦人がおしゃべりなれば自然親類の附合も丸く行かずして家に風波を起すゆえに離縁せよとの趣意ならんなれども、多言寡言かげんに一定の標準を定め難し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
子は半蔵門外に居を構へおのれは一番町なる父のいえに住みければ新聞社の帰途堀端を共に語りつつ歩みたる事度々なりき。子はその頃よりはなはだ謹厳寡言かげんの人なりき。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
常に寡言かげんにして、最も思慮雄断に長じ、たまたま一言を出せば確然人腸じんちょうを貫く、且つ徳高くして人を服し、しばしば艱難を経てすこぶる事に老練と、め立てているところを見ても
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
隆盛は寡言かげんの人である。彼は利秋のように言い争わなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとは反対に細君の言葉はかえって常よりも少なかった。しかしそれは彼がよく彼女において発見する不平や無愛嬌ぶあいきょうから来る寡言かげんとも違っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
劉大人は、いかにも大人らしい寡言かげんな人で、やがて召使いをよび、三名の部屋として、この南苑の客館を提供し、何かの事などいいつけ、ほどなく奥へかくれてしまった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども寡言かげんな彼女の頬は常にあおかった。そうしてどこかの調子で眼の中に意味の強い解すべからざる光が出た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)