安南あんなん)” の例文
栗に似たひしゃげた安南あんなん兵が劒銃をらねて並んでいた。その円いヘルメットの背後では、フランスの無線電信局が、火花を散らして青々と明滅した。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
舞え! 京都の柔弱兒を驚かせてやれ! 注げ! 酒だ! イスパニアの酒だ! ……安南あんなん交趾こうしから献上した
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高麗こうらい唐土もろこし暹羅シャム国、カンボジャ、スマトラ、安南あんなん天竺てんじく、世界ははて無く広がって居りまする。ここの世界が癪に触るとて、癪に触らぬ世界もござろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
久しぶりに、軽々と心が解放された気持ちで、床柱にもたれたまゝ、安南あんなん語で唄をくちずさんでゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
腰を据えて再征すれば、今度は虎手八千名をもってしても、結果は知れたものだったろうが、翌年は安南あんなんに兵を動かさなければならなくなり、日本の内乱も、英国とにらみ合って監視する必要がある。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
八年春三月、工部尚書こうぶしょうしょ厳震げんしん安南あんなん使つかいするのみちにして、たちまち建文帝に雲南にう。旧臣なお錦衣きんいにして、旧帝すで布衲ふとつなり。しんたゞ恐懼きょうくして落涙とどまらざるあるのみ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)