孤雁こがん)” の例文
幾多の人びとは独歩のひらいた「武蔵野」の道を歩いて行つたであらう。が、僕の覚えてゐるのは吉江孤雁こがん氏一人だけである。
会者、鳴雪、碧梧桐、五城、墨水、麦人、潮音、紫人、三子、孤雁こがん燕洋えんよう、森堂、青嵐せいらん三允さんいん竹子ちくし、井村、芋村うそん坦々たんたん、耕雨。おくれて肋骨ろっこつ、黄塔、把栗来る。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
土用に入ってまだ幾日も過ぎないのに、雁の来るのはめずらしい。群れに離れた孤雁こがんが何かの途惑いをして迷って来たのかも知れないと思っていると、雁は雨のなかにふた声三声つづけて叫んだ。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
冬荒ふゆざれの孤雁こがんのように淋しい吉良父子おやこであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして「沈黒江こっこうにしずむ明妃みんぴ青塚恨せいちょうのうらみ耐幽夢ゆうむにたう孤雁こがん漢宮秋かんきゅうのあき」とか何とか、題目正名だいもくせいめいとなう頃になると、屋台の前へ出してある盆の中に、いつの間にか、銅銭の山が出来る。………
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)