孤閨こけい)” の例文
ただ彼は、彼女がこれからの孤閨こけいに母としてのみ生きてゆく長い前途に、一日もはやく健康をとり戻すように——と、それだけが祈られた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六年間孤閨こけいをまもっていたおのぶの色香にうつつをぬかした彼にとっては、もはや役得どころのさわぎではない。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
内儀のお蔦は一年孤閨こけいを守った上、親類方の相談で、支配人をしていた、主人の義理の甥由兵衛に娶合めあわせ、升屋の身上は、小揺ぎもなく立って行きました。
今度のような侮辱を受けながらなお尼にもならず妻として孤閨こけいを守っていくことは例もないほど恥ずかしいことに違いないと、それからそれへと思い続けていく大姫君は
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ツイその数日前の或る新聞にも、「開国始末」でえんそそがれた井伊直弼いいなおすけの亡霊がお礼心に沼南夫人の孤閨こけい無聊ぶりょうを慰めに夜な夜な通うというようなくすぐったい記事が載っていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
で、これはぼくの想像にすぎないのだが、ぼくは、その孤閨こけいにあった美しい婦人こそ、兄の母だったのではないかという気がしてならないのである。
世の常識を蹂躙したしからぬしわざなのに、自分の死後にまで干渉の手を伸ばして、美しい鈴子夫人に一年間の孤閨こけいを守らせるとは、何たる醜い嫉妬ぞや——というのです。
情人の所をおたずねになって孤閨こけいを夫人にお守らせになることもなかったのが、にわかに一方で結婚生活をするようになればどんな気がするであろうと、お心苦しくお思われになるため
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして、まだ結婚して間のない新妻の玉日を、独り草庵の孤閨こけいに残して、旅に出ている人であろうとは。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)