妲己だっき)” の例文
現朝廷の妲己だっきである。いつかは女奏にょそうなんに会おう。そのとき、腹をたてて弓をひけば、自分もまた道誉の無節操と似た者となるしかない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょう妲己だっきのために騒動がもちあがった。しゅう褒姒ほうじのために破壊された? 秦……公然歴史に出ていないが、女のために秦は破壊されたといっても大して間違いはあるまい。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
耶蘇は表面姿を消しているが、しかし異学に姿を変じて活躍している、あたかも妖狐の化けた妲己だっきのようである、というのである。その文章は実に陰惨なヒステリックな感じを与える。
妲己だっき褒姒ほうじのような妖怪ばけものくさい恐ろしい美人をたとえに引くのも大袈裟おおげさだが、色をむさぼるという語に縁の有るところがら、楚王が陳を討破って後に夏姫かきれんとした時、申公しんこう巫臣ふしんいさめた
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今この国の政治まつりごとを執っているいん紂王ちゅうおう妲己だっきという妖女にたぶらかされて、夜も昼も淫楽にふける。まだそればかりか、妲己のすすめに従って、炮烙ほうらくの刑という世におそろしい刑罰を作り出した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とお延は妲己だっきの本性を現わして、扱帯しごきの下から引き抜いた匕首あいくちを逆手に、さっと小六に斬りつけてきた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)