妊娠みごも)” の例文
「みかど。それはそのはずではございませぬか。小宰相は妊娠みごもッているのですもの。みかどにしても、おいとしゅうございましょうから」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒神様あらがみさまではあるけれど、諏訪八ヶ嶽の宗介天狗様へ、申し児をせいと人に勧められ、祈願をかけたその月から不思議に妊娠みごもって産み落としたのが、この葉之助ではございませぬか。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「子供は強いなあ。子供にはかなわんよ。大人どもはつい妄想だけでも疲れはてる。……子といえば、卯木うつぎ妊娠みごもっているということだが」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉日の前は、もう、前の年から妊娠みごもっていて、彼女のへやには、いつのまにか、珠のような嬰児ややの泣き声がしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのせつ妊娠みごもっていた子も流産したので、長谷はせの観音へ祈願をこめて、初めて得たのがこの子であり、そこで幼名も観世丸と名づけたものであったという。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬になれば、飢えるもの、薬も求められぬもの、妊娠みごもっても産めぬものなどが、いっぱいでございまする。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、妊娠みごもっていた彼の妻はゆるされ、その子は、後に尊氏が、足利将軍家をたてる時代となるにおよんで、西園寺家のあと目をつぎ、北山の右大臣実俊さねとしとよばれた。
後、静は捕われて鎌倉へ曳かれ、鶴ヶ岡神前の舞で気を吐くが、そのときすでに妊娠みごもっており、十ヵ月目に初産ういざんする。頼朝は命じて、その子を、由比ヶ浜に投げ捨てさせる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、彼が上洛のまえから、妊娠みごもっているらしいことを、良人の耳にそっと告げていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼房よりふさの側室久子ひさこを母として生れたが、生れ出る時から、父の家庭に、ひと方ならぬわずらいを起したらしい。……それがため父は、悩みに悩んだあげく、妊娠みごもっているわしの母へ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は、この子を妊娠みごもる前に、私は、白い碁石をのむ夢を見たのでございます。所が、今、鼠屋の前まで行って、戸をたたいて薬を買おうと思うと、足許に、何か白いものが光っております。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保延四年には、時子はもう妊娠みごもっていた。見てもわかる体をしていた。
天皇上皇のきさき女御にょごともなり、一族、三公の栄位にならび、臣にして皇室の外舅がいきゅうともあがめられることはままあるならいなので、妊娠みごもった夫人が産屋うぶやにはいれば、藤氏とうしの氏神たる春日の社へ使をたてて
『新五左。……あの娘、妊娠みごもって居りはせんか?』
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の妻——北の方——は妊娠みごもっていた。