奔逸ほんいつ)” の例文
「即興曲」はシューベルトの無邪気さと奔逸ほんいつする天才の現れで興味が深い。ビクターにはフィッシャーの演奏で二集入っている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
バイエルタールの言葉を聞いていると、ときどき他のことを急にいいだすような、意想奔逸ほんいつとみられるところが少なくない。これは精神病者特有の一徴候なのだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼の魂の過去への物持ちが奔逸ほんいつな現実的な近代主義に打克つことができなかった。理想主義が伝統に敗れたとき彼の理智が無記銘な現在から彼の生命を奪ってしまった。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
然るに今日において、未だ男子の奔逸ほんいつばくするの縄は得ずして、先ずこの良家の婦女子をいざのうて有形の文明に入らしめんとす、果たして危険なかるべきや。きょを移すという。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
阪井の依頼というのは、なにしろこんな時世だから、出来るなら解放するほうがどちらのためにもいいのだが、奔逸ほんいつする危険がないかどうか行ってしらべてくれということなのでした。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
地物ちぶつり、加勢をあつめ、奔逸ほんいつの剣手鬼神の働きを増すことは知れている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若くて野心的で、ともすれば平次と違った方向へ奔逸ほんいつする善十郎は、決して平次に好感を寄せる相手ではなかったのです。
左れば記者が特に婦人を警しめて淫れたる事を見聴きす可らずと禁じたる其の教訓は、男子をして無遠慮に淫るゝの自由を得せしめたるに過ぎず。此れを内に幽閉せんとして彼れを外に奔逸ほんいつせしむ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
意想いそう奔逸ほんいつなようすでとめどなくしゃべりつづけるのです。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この思想は何時いつの世にも民衆の喝采を呼ぶことに変わりはなく、やや不健康な程度にまで奔逸ほんいつしたのは、泥棒小説とやくざ小説の題材になっているのである。