天網恢々てんもうかいかい)” の例文
「いや、それが油断だよ。誰だって初めから落第する積りで落第するものはない。天網恢々てんもうかいかいってことがある。土俵際で年貢を納める運命かも知れないよ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
後世その人に代わりてえんをそそぐものもあり、あるいは碑を建て史を編み、もってその名をして不朽に伝えしむるものもありて、「天網恢々てんもうかいかいにして漏らさず」
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それがどうだろう、天網恢々てんもうかいかいにして漏らさず、今度という今度は電車のなかの一件と、その晩の焼鳥一件と、一日にふたつも馬脚を現してしまったではないか。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「賊のかしら! つらを上げろ。……燈籠とうろう見物にまぎれていたら、誰にも分るまいと思っていたのだろうが、なんぞ知らん、天網恢々てんもうかいかいにしてらさずだ。恐れ入ったか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々てんもうかいかいにしてらしちまったり、何かしちゃ、つまらないぜ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
精三 天網恢々てんもうかいかいですかな。そういうのは一つ見せしめのために大いにしぼってやるんですよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
……天網恢々てんもうかいかい、象が梨の木坂を降りた拍子に腹に溜っていた血がみな胸のほうへ寄ってゆき、計らざりき、思いもかけない手薄なところから滲み出してしまったというわけだ。
然し真近まぢかく進んで、書生の田崎が、例の漢語交りで、「坊ちゃん此の通りです。天網恢々てんもうかいかいにして漏らさず。」と差付ける狐を見ると、鳶口で打割られた頭蓋とうがいと、喰いしばった牙のあいだから
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
一同はいまさらながら、天網恢々てんもうかいかいにしてらさずという古言こげんを味わった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
天網恢々てんもうかいかい疎にして漏らさずかい」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……天網恢々てんもうかいかい、なんと小癪こしゃくな、そして滑稽なる動物ではないか
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)