おと)” の例文
新字:
飢ゑ凍えようとする妻子のことよりも、おのれの乏しい詩業の方を氣にかけてゐる樣な男だから、こんな獸に身をおとすのだ。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
あなたの社會は少くとも教育のある人間の間にあつたのですから——しかし僕は、人間をよりよく爲し得る職務は品位をおとしはしないと思ひます。
さきにはタツソオの詩をして聞せ給ひしが、その句は今も我おもひ往來ゆききして、時ありては獨り涙をおとすことあり。そはわが泣蟲なるためにはあらず。
天照らす大神が清らかな機織場はたおりばにおいでになつて神樣の御衣服おめしものを織らせておいでになる時に、その機織場の屋根に穴をあけて斑駒まだらごまの皮をむいておとし入れたので
さうだ、この日の自分は明らかに校長閣下の一言によつて、極樂へ行く途中から、正確なるべき時間迄が娑婆の時計と一時間も相違のある此のあつき地獄におとされたのである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
瀉におとした黒猫の
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
品位をおとしたやうにさへ思ふかも知れない——何故なら私の見るところでは、あなたの日常生活は世間で云ふ洗煉されたものであり、あなたの趣味は理想に傾き
我齡は早く十六になりぬ。さるをばかりの事に逢ひて、必ず涙をおとすは何故ぞや。
それはいやしくもなく——無價値でもない——精神的に品位ひんゐおとすものでもなかつた。私は決心した。
血を流し給へる耶蘇、涙をおとし給ふ聖母をな忘れそ。汝がうからといふものは、その外にあらじかし。此詞を聞きて、われは身を震はせ、さらば我をばいづかたにか遣らんとし給ふと問ひぬ。