墓畔ぼはん)” の例文
西の夕焼が紅く、寺の墓畔ぼはんに立つ胡桃の木の枝を染める時、この景色を見た子供等は、きっと狂人のことを思い出して話し合った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
第二に、寂々寥々せきせきりょうりょうたる場所に多き事情あり。第三に、死人ありし家、久しく人の住まざりし家、神社仏閣、墓畔ぼはん柳陰りゅういんのごとき場所に多き事情あり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それから墓畔ぼはんのさまよいを楽むように成ったことや、ある時はこの世をあまり浅猿あさましく思って、死ということまで考えたが、母と妹のある為に思い直したこと
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
第二に、寂々せきせき寥々りょうりょうたる場所に多き事情あり。第三に、死人ありたる家、久しく人の住まざりし家、神社仏閣、墓畔ぼはん柳陰りゅういんのごとき場所に多き事情あり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
新緑の好季節に、雑司ヶ谷の墓畔ぼはんを散歩すると、そこには、幾何の詩人、作家、批評家が地下に眠っている。私は、共に歩いて来た、長い過去の文壇を願望する。
自由なる空想 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お繁の亡くなった頃は、私もよく行き行きして、墓畔ぼはんの詩趣をさえ見つけたものだが、一人死に、二人死にするうちに、妙に私は墓参りが苦しく可懼おそろしく成って来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
某教員が深夜墓畔ぼはんを通行せしに、白き形の怪物がピシャピシャと音を発して動きつつあるを認め、これ幽霊に相違なしと思い、満身冷汗を浮かべ、ゾッとして身震いするほど恐ろしく感じた。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いで行ってしまわれた夕暮、我れは悲しみにたえやらず、君の行方なつかしく、美しい茜色の西の大空を、野越え、山越え、森越えて眺めやり、松樹しょうじゅ影暗く繁る、瘤寺こぶでらの、湿しめれる墓畔ぼはんに香をいて