在郷ざいごう)” の例文
丸っこい顔に、大きな眼をもった在郷ざいごうの若者である。ふいに、見知らぬ女にゆり起されたので、きょろッと、その丸い眼でお甲を見つめた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町の人がおどろくほどの健康色、つまり、日焼けしたはだの色というものは、町ふうではなく在郷ざいごうふうだからだ。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
市中荷物を片づけ、年寄り、子供、遊女ども、在郷ざいごうへ逃げ行き、若者は御役申し付けられ、浪人武士数十人異船へ乗り込みいよいよ打ち払いの由に相成りそうろう
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吸いつけ煙草に離れともない在郷ざいごうの衆、客を呼ぶ牛太のこえ赤絹もみに火のついたような女たちのさんざめき、お引けまでに一稼ぎと自暴やけに三の糸を引っかいて通る新内の流し
上方では弱くて出世もできなかったが田舎へ来ればやはり永年たたき込んだ四十八手がものを言い在郷ざいごうの若い衆の糞力くそぢからを軽くあしらっている男、では一番、と平気で土俵にあがって
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いさちゃんのお婿むこさんなども、日露戦争にも出て、何処どこやらあかぬけのした在郷ざいごう軍人ぐんじんである。奉公に出た女にも、東京に嫁入よめいる者もあるが、田舎に帰ってとつぐ者が多い。何を云うても田舎は豊かである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「この近所に森という在郷ざいごうがありますか」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「この御岳みたけのまわりかい、それとも、もっととお在郷ざいごうかね?」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)