因子いんし)” の例文
翌る日はこの平凡らしい、——が奇つ怪な因子いんしはらんだ行方不明事件は、一擧に妻まじい破局へ盛り上げてしまつたのです。
また秘仏の壮厳しょうごんよりも赤裸な人間のなかに菩提の因子いんしを求めて、これにいつわりのない平明な教義を附したのも彼だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其背後に必ずある思想家なり学者なりの言説を大いなる因子いんしとして数へたがつてゐる傾向に見える。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、彼自身でそれを少しも変だと思わないところに、彼のひそかな恋情がひそんでおり、彼の将来の運命に何かの影をなげる因子いんしが芽を出しかけているともいえるであろう。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(風と嘆息たんそくとのなかにあらゆる世界の因子いんしがある)
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
千萬言をつひやしたところで、呑込める筈はなく、百人に許した唇も、どんな罪惡の因子いんしを持つて居るかも知れない血統ちすぢも、花魁おいらんといふ名で淨化される、單純至極な考へやうには