とらわ)” の例文
予は財なきが故に、時々云うに云われない苦悶をせねばならぬ、いとうべきこの土地にとらわれて居ねばならないのである。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこに我々の自己が世界の自己表現の過程として、行為的直観的に見るのである。超越的なる神の媒介を要すると考えるのは、主語的論理の形式にとらわれいるが故である。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
痩我慢をして実は堂々たるものの如くよそおって人の前にもこれを吹聴ふいちょうしたのである。感激的教育概念にとらわれたる薫化くんかがこういう不正直な痩我慢的な人間を作り出したのである。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巴里パリのように48 | 23とすれば、まだしも少しわかりよいのに、何でもかでも三けたおきにコンマを附けなければならぬ、というのは、これはすでに一つのとらわれであります。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして癲癇てんかんのような烈しい発作は現われなくなった。もし母が昔の女の道徳にとらわれないで、真の性質のままで進んでいったならば、必ず特異な性格となって世の中に現われたろうと思う。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
白状すれば、私なども僭越せんえつながら其発頭人の一人である。作物の上に長く煩いした学問のとらわれから、やや逃げ道を見出したと思って、私のほっと息つく時に、若い人々の此態度を見るのである。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
とらわれの身となっては一言も答えるべき必要はない。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)