喧囂けんがう)” の例文
この行甚だ楽しからず、蒼海約して未だ来らず、老侠客のかほ未だみえず、くはふるに魚なく肉なく、徒らに浴室内に老女の喧囂けんがうを聞くのみ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
し我相場師とならば、喧囂けんがう雑踏極まりもなき牡蠣殻町かきがらちやうの塵埃の中にも、我が閑天地を見出し得ん。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(原註。拿破里ナポリ大街おほどほりの一にして其末は海岸に達す。)同じ闐溢てんいつ、同じ喧囂けんがうは我等を迎へたり。劇場あり。軒燈籠懸け列ねて、彩色せる繪看板を掲げたり。輕技かるわざの家あり。
そしてフロッコオトの長い尻尾しつぽをぴくぴくふるはせて、立ちすくんでしまつた。何分かが喧囂けんがうの内に過ぎた。血走つた先生の凹んだ眼には、その時涙さへにじんで來たのである。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
私はハンカチーフで鼻腔びかうおほひながら松風の喧囂けんがうに心を囚へられてゐると、偶然、あの
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
されどこの金色こんじき喧囂けんがううち
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
魚市に喧囂けんがうせる小民、彼も亦た宇宙に対する運命に洩れざるなり、彼も亦た彼の部分を以て、宇宙を支配しつゝあるものなり、この観を以てすれば、王侯将相と彼との間に何の径庭けいていあらんや。
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)