なき)” の例文
ブリキを引っかくような音! ……お父さまが宮内くない省からいただいた、あの愛想のいい、『孔雀氏ムッシュウ・ド・パン』のなき声のことなのです。(ほんとうに、失敬ね!)
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
怪しき声してなき狂ひ、かどを守ることだにせざれば、物の用にもたたぬなれど、主人は事の由来おこりを知れば、不憫さいとど増さりつつ、心を籠めて介抱なせど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
と驚いて居る時、秀吉は既に此処に移転して、「なきたつよ北条山の郭公ほととぎす」と口吟くちずさんで、涼しい顔をして居た。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
湿うるめる眼をしばたたきて見かえれば、そよ吹く風に誘われて、花筒にはさみたる黄と紫の花相乱れて落ちぬ。からす一羽、悲しげに唖々ああなきすぐれば、あなたの兵営に喇叭らっぱの声遠く聞ゆ。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)