はぐく)” の例文
何と云っても文学をはぐくむに最も適した土地は貴族社会であった。寝て居て食える社会であった。閑人の社会に文学は生れる。
第四階級の文学 (新字新仮名) / 中野秀人(著)
それと呼応して全宇宙に漲る大生命のはぐくみ育てんとする作用力が、この種子に働きかけるためだと仏教では考えるのです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この楽団は純然たるメンゲルベルクの手兵で、メンゲルベルクはこの管弦団を三十年このかたはぐくみ育てて来たのである。
強靱きょうじんな感情と、自然にはぐくまれた叡智えいちとをもって自然を端的に見る事のできる君のような土の子が——芸術の捧誓者ほうせいしゃとなってくれるのをどれほど望んだろう。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その直前にこの后は、山中において王子を産んだ。そうして、首を切られた後にも、その胴体と四肢とは少しも傷つくことなく、双の乳房をもって太子をはぐくんだ。
ともあれ私は感謝する。そして私を癒したものゝ前に、私自身の生命を大切にはぐくんで行かう。
輝ける朝 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
子供をはぐくんだりする時、いかばかり偉大な事業がその内部で成就されていることか! それはつまり、われ/\を継承し、われ/\に代るべきものが成長しているのですからね。
彼等は一回に決して二つやそこら生むものではないが、哺乳が平均しないため、十分はぐくむことが出来ないで、先きへ生れた者は餓死するのである。これはたいがいはずれっこはない。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
かど小さく、山ありて、軒の寂しきあたりには、到る処として聞かざるなき事、あたかも幽霊があめを買いて墓の中に嬰児えいじはぐくみたる物語の、音羽にも四ツ谷にも芝にも深川にもあるがごとし。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古伝にこの神インドを征服したというから虎を愛するはずだ、インドへ出立前に秘儀を女神キベレーより授かる、キベレーは獅を使い物とす、生まれて棄てられ豹にはぐくまれて育ったという。
これをピエルネの才能と人格とではぐくみ、パリ人らしい神経の行きわたった、磨き抜かれた管弦団にし、パレーがその後を承けて指揮しているのは面白い。
そればかりか、その絵が与える全体の効果にもしっかりとまとまった気分が行き渡っていた。悒鬱ゆううつ——十六七の少年にははぐくめそうもない重い悒鬱を、見る者はすぐ感ずる事ができた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは、大自然の万物をはぐくみ、かばい、育てて行く力が私を歩かせたのです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肉におぼれんとするものよ。肉は霊への誘惑なるを知らざるや。心の眼鈍きものはまず肉によりて愛に目ざむるなり。愛に目ざめてそをはぐくむものは霊に至らざればやまざるを知らざるや。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)