咄嵯とっさ)” の例文
決然として振り払えば、力かなわで手を放てる、咄嵯とっさに巡査は一躍して、棄つるがごとく身を投ぜり。お香はハッと絶え入りぬ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伝吉はうしろ手に障子をしめ、「服部平四郎はっとりへいしろう」と声をかけた。坊主はそれでも驚きもせずに、不審ふしんそうに客を振り返った。が、白刃しらはの光りを見ると、咄嵯とっさ法衣ころもひざを起した。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生きた心地も無いこの哀れな青年を前にして、技手は全く途方にくれたようであったが、一方空っぽにして来た変電所の事も気になるらしく、咄嵯とっさうにか、後始末の手段を考えてくれた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
虹汀、修禅の機鋒きほうを以て、身を転じてくうを斬らせ、咄嵯とっさに大喝一下するに、の武士白刃と共に空を泳いで走る事数歩、懸崖の突端より踏みはずし、月光漫々たる海中に陥つて、水烟すいえんと共に消え失せぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし金将軍は少しもさわがず、咄嵯とっさにその宝剣を目がけて一口のつばを吐きかけた。宝剣は唾にまみれると同時に、たちまち神通力じんつうりきを失ったのか、ばたりとゆかの上へ落ちてしまった。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いうまじき事かも知れぬが、辻町の目にも咄嵯とっさに印したのは同じである。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)