味気あぢき)” の例文
旧字:味氣
母君はゝぎみにキスしてき給ふ愛らしさ、傍目わきめにも子を持たぬ人の覚えあたはぬ快さを覚え申しさふらふ巴里パリイとははや三時間も時の違ひさふらふらん。味気あぢきなくさふらふかな。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さう思ふと、自分一人世の中に取り残されて、悲しく情ない目に会つてゐることが、味気あぢきなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
にじみ出ると、生活から游離された霊魂が、浮ばれずにさまよつてゐるのではなからうかと思はれて、私は大地の底へでも、引きり入れられるやうに、たゞもう、味気あぢきなく
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
彼方あなたも在るにあられぬ三年みとせの月日を、きは死ななんと味気あぢきなく過せしに、一昨年をととしの秋物思ふ積りやありけん、心自から弱りて、ながらへかねし身の苦悩くるしみを、御神みかみめぐみに助けられて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
船の中で部屋づきのボオイや給仕女に物を云ふ以外に会話らしい会話もせず三十八日居た自分は当分普通の話にも間の抜けた事を云ふのであらうとこれなども味気あぢきなく鏡子には思はれるのであつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まだ味気あぢきない生命いのちがある。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)