含羞はにかみ)” の例文
さういつた関係から、双方無口であり極度の含羞はにかみやでありながら、何か黙照し合ふものがあるつもりで頼母たのもしく思つてゐた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それを聞くと同時に、四郎の顔から、今までの含羞はにかみや気弱さが、まるで拭ったように消え去った。彼は、くそ落付おちつきに落付いて挨拶をわした。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
こゝで一つの例を挙げれば、日本人は非常に含羞はにかみやである、照れ屋である、と私ばかりでなく、多くの人は認めてゐます。
和助は彼女が膳拵ぜんごしらえをすると、こう云って自分の側へ招いた。わるく遠慮するふうもなく、ほのかな含羞はにかみをみせながら、おけいはすなおに来て坐った。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
みじんも含羞はにかみを感じないで、二人の顔が一尺くらいの間隔で、六十秒もそれ以上もとてもいい気持で、そのひとのひとみを見つめて、それからつい微笑んでしまって
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
刺戟しげきの少い田舎の町で安穏あんのんに暮して行くのには適しているし、定めし本人にも異存はあるまいと極めてかかったのが、案に相違したのであったが、内気で、含羞はにかみ屋で
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしはこの頃、自分の内心の幸福感に自分でおどろき、そのそよぎの活々した波だちに殆ど含羞はにかみを覚えるばかりです。それはわたしたちのいとしい、いとしい燈明よね、改めてゆっくり、では。
彼は牝豹めひょうの前のうさぎのごとく、葉子を礼讃らいさんし、屈従していた。処女のような含羞はにかみがあるかと思うと、不良少年のような聡慧そうけいさをもっていたが、結局人間的には哀れむべき不具者としか思えなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「深夜の市長」は笑ったが、その笑いは妙な含羞はにかみの響きを持っていた。僕の方はすこしも笑うことができなかった。その理由は、誰にも分ってくれるだろう。……
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしはまた、「えゝ、来ましたわ」と言って、顔を斜に俯け、女学生風の含羞はにかみを見せただけで、直ぐ雪沓を脱ぎかゝりました。先生は葛岡の方はちらりと見ただけで、わたくしの肩に手をかけ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)