向側むかいがわ)” の例文
中にも、長椅子に横わっている龍ちゃんと、丁度僕の向側むかいがわに腰かけている鞠子さんの服装が、闇をぼかして、薄白く浮上って来た。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折々吹く風がバタリと窓のすだれうごかすと、その間から狭い路地を隔てて向側むかいがわの家の同じような二階の櫺子窓れんじまどが見える。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マドンナも大方この手で引掛ひっかけたんだろう。赤シャツが送別の辞を述べ立てている最中、向側むかいがわに坐っていた山嵐がおれの顔を見てちょっと稲光いなびかりをさした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瘠せ女がこう云い切ってしまわぬうちに、今度は向側むかいがわに居た、赤膨れの赤んが甲走った声で——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
向側むかいがわの元柳原町に移ったものと考えられぬでもない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山羊髯のおやじは、その吾輩の真正面に、丸卓子テーブルを隔ててチョコナンと尻をおろした。向側むかいがわの椅子も相当歪んでいるようであるが、引っくり返らないのは身体からだが軽いせいであろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)