古渡唐桟こわたりとうざん)” の例文
それがいつとなくけて来て、人柄ひとがらおのずと柔らかになったと思うと、彼はよく古渡唐桟こわたりとうざんの着物に角帯かくおびなどをめて、夕方から宅を外にし始めた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子之助はひとえ羽織とあわせとを遊所に持て来させて著更え、脱ぎ棄てた古渡唐桟こわたりとうざんの袷羽織、糸織の綿入、琉球紬りゅうきゅうつむぎの下著、縮緬ちりめんの胴著等を籤引くじびきで幇間芸妓に与えた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから、着物に凝った方で、——この古渡唐桟こわたりとうざんは、汚れてはおりますが、よく存じております。
古渡唐桟こわたりとうざんの大財布に、出羽様のお作料の三十両とお艶の身売り金を預かったのとをいっしょに入れて、ズッシリと紐で首からさげていた、その財布が盗まれているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
口まで出かかった謝罪の言辞ことばを引っ込まして、伝二郎は本能的に懐中に紙入れを探った。なかった。たしかに入れておいたはずの古渡唐桟こわたりとうざんの財布が影も形もないのである。
安政四年になって銀鎖ぎんぐさり煙草入たばこいれ流行はやった。香以は丸利にあつらえて数十箇を作らせ、取巻一同に与えた。古渡唐桟こわたりとうざんの羽織をそろい為立したてさせて、一同にあたえたのもこの頃である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)