南清なんしん)” の例文
本島人の宗教は、シナなかんずく南清なんしんの宗教である。都会の地には文武両廟ぶんぶりょうびょうがありて、文廟には孔子を祭り、武廟には関帝を祭っておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
自分は南清なんしん及びフイリツピン群島から遊びに来る西洋人から、日本の風景に対する同様の賛辞を幾たび耳にしたか知れない。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかし不思議だろうか、山本さんのように長く南清なんしん地方に居た人が自然と異なった風土に化せられて来たというは。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
南清なんしんで植民会社を創立したり、その当時の不遇政客のてつを踏んで南船北馬なんせんほくば席暖まるいとまなしと云う有様であったが、そのうちにばったり消息が無くなって
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
らなくてはならない。実はそんな事はよして南清なんしんの方へ行きたいのだが、人生意の如くならずだ。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何を見るともなく、彼女は若々しい眼付をした。こうして親切にしてくれる、南清なんしんの方までも行った経験の多い、年長としうえな人と一緒に旅することを心から楽しそうにしていた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしさすがに声はかけず、鋭い眼付めつきまたたき一ツせず車掌の姿に注目していた。車の硝子窓ガラスまどから、印度や南清なんしん殖民地しょくみんちで見るような質素な実利的な西洋館が街の両側に続いて見え出した。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もとより資本あっての商法では無い。磐城炭いわきたんの売込を計劃したことも有ったし、南清なんしん地方へ出掛けようとして、会話の稽古までしてみたことも有った。未だ彼はこれという事業しごとに取付かなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)