判切はっきり)” の例文
その人の様子といい言葉遣ことばづかいといい歩きつきといい、何から何まで判切はっきり見えたには見えたが、田口に対する返事は一口も出て来なかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は女がなぜ淡泊たんぱくに自分の欲しいというものの名を判切はっきり云ってくれないかをうらんだ。彼は何とはなしにそれが知りたかったのである。すると
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分に判切はっきり聞こえたのはただこれだけであった。その他は彼女のむやみに引泣上しゃくりあげる声が邪魔をしてほとんどくずれたまま自分の鼓膜こまくを打った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年の若い彼の眼には、人間という大きな世界があまり判切はっきり分らない代りに、男女という小さな宇宙はかくあざやかに映った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを叔父の口から判切はっきり聴かされた時、お延は日頃自分が考えている通りの叔父の気性きしょうがそこに現われているように思って、あんに彼の親切を感謝すると共に
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手に取るように判切はっきりしているので、彼はすぐその確的たしかさの度合から押して、室の距離を定める事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一言語が不明暸ふめいりょうであった。それから判切はっきり聞こえるところも辻褄つじつまの合わない事だらけだった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄さんの絶対というのは、哲学者の頭から割り出されたむなしい紙の上の数字ではなかったのです。自分でその境地きょうちに入って親しく経験する事のできる判切はっきりした心理的のものだったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
判切はっきり云って涙を落した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)