兎唇みつくち)” の例文
その後も毎夜夫人のねやを訪れては、例に依って兎唇みつくちの口元をもぐ/\させながら聞き取りにくい甘ったるい私語をさゝやいていた。
兎唇みつくちの手術のために入院している幼児の枕元の薬瓶台の上で、おもちゃのピエローがブリキの太鼓を叩いている。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小者が、奥へ駈けこむと、やがてその者と連れ立って、黒革胴を着込んだ背の小づくりな——そして兎唇みつくちの見るからに風采のあがらない武士が出て来た。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本来ならばそんな事は、恐れ多い次第なのですが、御主人のおおせもありましたし、御給仕にはこの頃御召使いの、兎唇みつくちわらべも居りましたから、御招伴ごしょうばんあずかった訳なのです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
頬には、刀傷や、異様な赤い筋などで、皺が無数にたたまれているばかりでなく、兎唇みつくち瘰癧るいれき、その他いろいろ下等な潰瘍かいようの跡が、くびから上をめまぐるしく埋めているのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「打ちみたところ、眼ッかち、鼻べちゃ、藪にらみ、さては兎唇みつくち出歯の守、そろいそろった男が、ひょっとこ面を三百も、目刺しまがいに、並べたところは祭だが祭は祭でも血祭りだ」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
兎唇みつくちの若い男である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
兎唇みつくちになってから段々声の出し方が臆病になり、恐々こわ/″\しゃべる習慣がついて来たので、全く安心しきっている今の場合でも、どうかするとの啼くようなかすかな声になる。
梶王と云うのはさっき申した、兎唇みつくちわらべの名前なのです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女と此の兎唇みつくちの大名とが水入らずで対坐しているねやの光景が見たくてならなかった。