兇悪きょうあく)” の例文
旧字:兇惡
がまんできぬ屈辱感にやられて、風呂からあがり、脱衣場の鏡に、自分の顔をうつしてみると、私は、いやな兇悪きょうあくな顔をしていた。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
兇悪きょうあく四馬剣尺を向うにまわして、少年探偵団の働きやいかに。淡路島の上空に、いまや、ただならぬ風雲がまきおこされようとしている。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
都会の兇悪きょうあくな相貌がぐるぐると胸裡を駆けめぐりそれは一瞬たりとも彼のようなもののりつけそうにない場所に変っていた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
我を切り、突き、剜らんとする一切兇悪きょうあく刀槍剣戟とうそうけんげきの類は、我に触れんとするに当って、其の刃頭が皆妙蓮華みょうれんげつぼみとなって地に落つるを観た。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昼間は指物師をやり市会議員を勤めていたが、夜になると一変して賭博者とばくしゃとなり、兇悪きょうあくな強盗となって活躍した。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かざした炬火は、炎とすすとで、赤くただれ、兇悪きょうあくな形相をした生きもののようにのたうちまわった。人々は、半面を照らされたり闇に埋められたりした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
狐と大力とは別に関係はないわけだが、狐の兇悪きょうあくな性質を受けたと見え、現在の闇市やみいちの親分のように、商人をいじめては、いろいろな品物をうばいとっていた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが、背中を丸くして、サッと走って行くうしろ姿に、なんともいえぬ醜怪な、兇悪きょうあくなものが感じられた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、何人なんぴとも、この坊主の前身を、ほんとうに気がついているものはすくなかろう——鉄心庵現住の、大坊主、これこそ、その道では名の通った、島抜けの法印ほういんという、兇悪きょうあくしろものなのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
チベット行は、うやむやになったが、勝治は以来、恐るべき家庭破壊者として、そろそろ、その兇悪きょうあくな風格を表しはじめた。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わしのにらんだところによると、宇宙のどこかに、兇悪きょうあくな宇宙の猛獣とでもいうべき奴がひそんでいて、みんなそれに喰われてしまうんだどおもうよ
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
むやみにひどい悪者にされて居る原田甲斐は、其の実兇悪きょうあくな者では無い、どちらかと云えばカッとするような直情の男だったろうと思われるが、其の甲斐は即ち此の宗時の末だ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ことにも山賊の父から兇悪きょうあくの血を受け、いまは父の真似して女だてらに旅人をおどしてその日その日を送り迎えしている娘だ。胸がもやもやとなり、はや、人が変り、うわべはおだやかに笑いながら
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)