余憤よふん)” の例文
「たぶん江戸へ来れば、何かよいことでもあるように思ってきたんだろうが」と、勘平はまだ余憤よふんが去らないように、一人でつづけた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
のみならず道に敷いた石炭殻も霧雨きりさめか露かにとおっていた。僕はまだ余憤よふんを感じたまま、出来るだけ足早に歩いて行った。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いくらなじっても、なじりがいのない相手ではあったが、その業腹の余憤よふんをもって、立ちがけにこう訊ねた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階にはあがったが、隆太郎余憤よふんが晴れないと見えて、窓の障子紙をぴりぴりぴりと裂き初める。だが、こちらはうずたかく持って出された画帖や色紙や短冊をそうはばりばりとやる訳にはゆかない。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
今もなおこの幕臣のまげの中には、旗本柔弱なりと叱られたそのときの余憤よふんがこもっているのか、わけても太い奴を横ざしにぶっ差して、目の光りのうちにも、苛々いらいらとした反抗のいろが強かった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
余憤よふんは、院の法皇にすら向けられて、西八条は、夜明けにかけて、いよいよ兵気がさかんになる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年とった支那人はこう言ったのち、まだ余憤よふんの消えないように若い下役したやくへ話しかけた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正保、慶安は、すこし乱兆らんちょうすら見えた。戦国の残存者の余憤よふんであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをにらめすえながら、利家はなお余憤よふんのさめぬような語気で云った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東儀与力はまだ余憤よふんがしずまらないで
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)