仲買なかがい)” の例文
こんな鷹揚おうようなものの云い方をしながら父親は獲物えものを鰻仲買なかがいに渡した。憐れな父子と思いながら小初はいつか今夜の父の漁れ高を胸に計算していた自分が悲しかった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしがこの人を知ったのは、そのくつ屋さんの時代からですが、それからも岩代いわしろの国黒森くろもりというところの鉱山の監督になり、次に株式所の仲買なかがい番頭ともなりました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この客は東京のものか横浜のものか解りませんが、何でも言葉の使いようから判断すると、商人とか請負師うけおいしとか仲買なかがいとかいう部に属する種類の人間らしく思われました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田舎紳士いなかしんしは宿場へ着いた。彼は四十三になる。四十三年貧困と戦い続けたかいあって、昨夜ようや春蚕はるご仲買なかがいで八百円を手に入れた。今彼の胸は未来の画策のために詰っている。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
世にも珍らしい生産の形で、これがどんなに仕事を実着なものにさせているでありましょう。多くの場合工藝の堕落が問屋とんや仲買なかがいの仲介によることは、歴史の示す通りであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
このおじいさんは、これらの金魚きんぎょ仲買なかがいや、卸屋おろしやなどからってきたのではありません。自分じぶんたまごから養成ようせいしたのでありますから、ほんとうに、自分じぶん子供こどものように、かわいくおもっていたのです。
金魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)