仰臥ぎやうぐわ)” の例文
その冷却した透明な波の上に、少しも腐蝕する事なき四肢ししを形ちよくそろへた老婆の屍体は、仰臥ぎやうぐわの姿で唯だ一人不定の方向へとただよつてゐた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
やまくづして、それに引添ひきそふやうにてられたこのいへの二かいからは、丁度ちやうどせまらぬ程度ていどにその斜面しやめんそらの一とが、仰臥ぎやうぐわしてゐるわたしはいつてる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
が、その一週間か二週間かまへに今の恒藤恭つねとうきよう——当時の井川ゐがは恭と一しよにお見舞に行つたことは覚えてゐる。先生はベツドに仰臥ぎやうぐわされたまま、たつた一言ひとこと大分だいぶい」と言はれた。
二人の友 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
赤彦君は今は仰臥ぎやうぐわしてゐる。さうして、純黄色になつた顔面から、二日前に見たときのやうな縦横無数の皺が全く取れて、そのために沈痛の顔貌がんばうは極く平安な顔貌に変つてゐる。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)