他所行よそゆき)” の例文
それから同胞のN君を訪ね、一しよに散歩に出た。けふは日曜で天気が好いので、町の人も他所行よそゆきの著物を著て歩いてゐる。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、他所行よそゆきの衣服を着たお吉が勝手口から入つて来たので、お定は懐かしさに我を忘れて、『やあ』と声を出した。お吉はちよつと笑顔を作つたが
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかし彼女は平常とは違つて、看護服を着ず、他所行よそゆき姿で、他の看護婦達と恰も別れでも惜しむやうに、何だか頻りに感傷的な調子で話して居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
しぐれそうな日の午後、他所行よそゆきに着替えた御主人がにこやかにいった。後にお神さんも一帳羅を着てめかしていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
他所行よそゆきと、不断着、見せる本と、読む本との間に、多少の違いのあるのはむを得ないことであるかもしれない。
或は田町の鹽湯で見た時から暫時しばらくの間——もう少し押切つていへば、久保田君の第一集、「淺草」の出る頃迄の久保田君は、極めて他所行よそゆきの久保田君だつたのかもしれないが
お島は乃公に他所行よそゆき洋服きものを着せて、横撫ぜをしないようにと言ったから、一つなぐってやった。新しい襟飾を付けて、新しい手袋を穿めて、新しいハンケチを持って、何も彼も新しずくめだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「へッ、親分の前だが、そんなことであっしが飛んで来るものですか。今日の大変は他所行よそゆきの大変なんで」
それから、上さんは靴下の繕ひを自慢して見せ、他所行よそゆき著物きものを持つて来て見せ、次いで一足の靴を持つて来て見せ、墺太利オーストリーSalzburgザルツブルク 製だと云つた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
私の頭脳あたまを多少他所行よそゆきの心持にした。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「よし/\心中する道行に他所行よそゆきの煙草入を持つて行く筈はないと言ふつもりだらう」
媼の他所行よそゆきの衣裳はすその長い旧式な黒衣であつた。その衣裳をて媼は私等と芝居見に行き、夕餐ゆふさんをしに行つた。ある日媼はその衣裳を著、貸間を見に私を連れて行つて呉れたことがある。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「へツ、相變らず無精をきめ度いんでせうが、今日の大變は他所行よそゆきの大變ですよ」
労働者達もけふは日曜なので帽も服も他所行よそゆきのを著、なかには男の子を肩車にして、妻を連れて歩いてゐるのなどもある。路傍に立つて心霊療法の本を売つてゐるのにも労働者等がたかつてゐる。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「夜更けに、他所行よそゆきの懐中煙草入を持って、土蔵へ入る人間はないよ」
「お安い御用だ、他所行よそゆきのですか、それとも平常ふだん使ひのですか」