おほ)” の例文
が、再び学窓に其人はあらはれなかつた。山間水涯さんかんすゐがいに姓名を埋めて、平凡人となりおほするつもりに料簡をつけたのであらう。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ひよつとしたら、仕事したなんて人は、自分の虫をいつくしみおほせた所から出発したのかもしれない。
私の事 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
やりおほせたぢやありませんか?——そんなことはどうでも好いことです。さあ、早く御逃げなさい。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それを護りおほせなかつた清左衞門は、腹を三つ切つても追つ付かないことになるのでした。
松本が周章あわてて起たんとする時賛成々々の声四隅に湧出わきだして議長の意見を嘉納しおほせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
直覚的に人世を観破するものあり、四者各其方面に向つて吾人に教ふる所なきにあらず、然れども人生は心理的解剖を以て終結するものにあらず、又直覚を以て観破しおほすべきにあらず
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その雪尾根をかゞやかし、 野面のうれひを燃しおほせ。
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は世捨人になりおほせなかつた芭蕉の矛盾を愛してゐる。同時に又その矛盾の大きかつたことも愛してゐる。さもなければ深草ふかくさ元政げんせいなどにも同じやうに敬意を表したかも知れぬ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)