乾草ほしくさ)” の例文
或人あるひとは、大女のくつを女中がみがいてゐるのを見たと言ひます。その靴は、ちやうど乾草ほしくさをつんだ大きな荷車ほどあつたといふ話です。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
お前さんはちょうど乾草ほしくさの上に寝ていながら、自分でそれを食うでもなければ他人に食わせもしない番犬みたいなものだからね。
輝かしいとかはなやかとか云ふやうな夏の夕方ではなかつたけれど、美しく穩やかであつた。乾草ほしくさを作る人々は道に沿つて仕事をしてゐた。
馭者ぎょしゃは橇の中で腰まで乾草ほしくさに埋め、くびをすくめていた。若い、小柄な男だった。頬と鼻の先が霜であかくなっていた。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
それらの上﨟たちに仕えていた侍女、若党などの百何十人も、まわりに乾草ほしくさを高く積んだ四つの空家に押し籠められて、一刻いっときのまにみな焼き殺された。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その町の端頭はずれと思う、林道の入口の右側の角に当る……人はまぬらしい、壊屋こわれやの横羽目に、乾草ほしくさ粗朶そだうずたかい。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屋根を草でふいたことから思いついたのであるが、両方の島の葉のながい草を、ジャック・ナイフでかりとっては、日にほして、馬のたべるような乾草ほしくさを作った。これは、冬の支度である。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
乾草ほしくさひつぎのなかに腹這う哀愁
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
乾草ほしくさ一駄いちだよ。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
あそこの畑でねえ、アデェル、一寸二週間許り前のある夕方晩く歩いてゐたのだ——お前が果樹園の草地で乾草ほしくさ作りの手傳ひをした日の夕方だつたよ。
ドミトリー・ウォルコフは、(いつもミーチャと呼ばれている)乾草ほしくさがうず高く積み重ねられているところまで丘を乗りぬけて行くと、急に馬首を右に転じて、山の麓の方へせ登った。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
その辺に積んである乾草ほしくさの上に押し仆されていたものとみえ、人の跫音に驚いて、髪も着物も、わらや乾草だらけになって、起き上がっていたが、襟はひらいているし、帯はだらりと解けている——
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソーンフィールドの牧場でも人々は乾草ほしくさを作つてゐた。と云ふよりも寧ろ勞働者達はちやうど仕事を止めて、熊手くまでを肩に歸りかけてゐた。丁度その時分に私は着いたのだつた。