乍併しかしながら)” の例文
乍併しかしながら里見さんの場合にも、鈍くて押の強い連中は、屡々間違つた批評を浴せかける。「大正の鏡花」の如きも勿論その一例である。
乍併しかしながら、此の家庭問題を、色々と討究して、八釜しくいうて居る現象は、決して悪い事でない、むしろ悦ぶべき状態に相違ないのであろう。
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
貴嬢あなたは特に青年の為に御配慮です、乍併しかしながら今日こんにちの青年は、牧者のつゑを求むる羊と云ふよりは、母雞おやどりの翼を頼むひなであります
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乍併しかしながら私の此の希望は単なる希望にのみ止まつて容易に実現し得ない事と考へる。
狩太農場の解放 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
乍併しかしながら、その時から既に十餘年の歳月は過ぎた。彼も亦魚の腸の腐つた臭ひに馴れてめとり、或は親と呼ばれる身になつてゐるかもしれない。
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
乍併しかしながら自分が心から安心の出来ないのにどうして児供等を安心させることが出来よう。次へった三児の後影うしろかげ如何いかにも寂しかった。予は坐して居られない程胸に苦痛を覚えた。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
僕は実に失望落胆の為めほとんど発狂するばかりに精神を痛めたです——乍併しかしながら更に退しりぞいて考へると、れはいたづらに愁歎しうたんして居るべき時でない、僕の篠田を崇拝したのは其の主義に在るのだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乍併しかしながら先生の御作の尊きはその豐富なる想像によりて編まれたる變化極まり無き物語の筋にはあらず、その色彩に富む繪畫的文章の妙にもあらず
私も決して喜んで行かうとは思ひませぬ、乍併しかしながら、私共同志者の純白の心事が、斯かることの為に、政府にも国民にも社会一般に説明せられまするならば、べうたる此一身にとつ此上こよなき栄誉と思ひます
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乍併しかしながら余が「文明」を愛讀するは一に永井先生の文章あるが爲にして、忌憚なく云へば他の諸氏の文章の多くは余の最も好まざるところのものなり。
相手の鼻垂しも、同じく此の説明を承認してゐたと見えて、此の點には異議は云はなかつたが、乍併しかしながら、如何にして母のお腹に宿つたかといふ根本問題を、からかひ氣味に教へて呉れた。
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
乍併しかしながら、去つて泉先生の描出した「伯爵の釵」を讀め。