丹次郎たんじろう)” の例文
また『春色梅暦』では、丹次郎たんじろうたずねて来る米八よねはち衣裳いしょうについて「上田太織うえだふとりの鼠の棒縞、黒の小柳に紫の山まゆ縞の縮緬を鯨帯くじらおびとし」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「丹さんは唐琴屋からことや丹次郎たんじろうさ。わからねえのか。今時いまどきの娘はだから野暮で仕様がねえ。おかみさんに聞いて御覧ごらん。おかみさんは知らなくってどうするものか。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いわゆる女にしても見ま欲しいという目眩まぶしいような美貌で、まるで国貞くにさだ田舎源氏いなかげんじの画が抜け出したようであった。難をいったら余り美くし過ぎて、丹次郎たんじろうというニヤケた気味合きみあいがあった。
潜門くぐりもんの板屋根にはせた柳がからくも若芽の緑をつけた枝をたらしている。冬の昼過ぎひそかに米八よねはちが病気の丹次郎たんじろうをおとずれたのもかかる佗住居わびずまい戸口とぐちであったろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしはまた更に為永春水ためながしゅんすいの小説『辰巳園たつみのその』に、丹次郎たんじろうが久しく別れていたその情婦仇吉あだきちを深川のかくれにたずね、旧歓をかたり合う中、日はくれて雪がふり出し
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)