下駄穿げたばき)” の例文
明るくかがやかした燈火ともしび、ぞろぞろと踏んで通る下駄穿げたばきの音、その雑踏の中を分けて、何か品物が売れる度に捨吉は入口と帳場の間を往来した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
関取は下駄を穿いており、大きななり下駄穿げたばきだから羽交責どころではない、ようやく腰の処へ小さい武士ぶしが組付きました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
不断一八いっぱちに茶の湯のお合手にいらっしゃった、山のお前様、尼様の、清心様がね、あの方はね、平時いつもはお前様、八十にもなっていてさ、山から下駄穿げたばきでしゃんしゃんと下りていらっしゃるのに
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたの類と心得て取ってしまったため、直接釜に触れる足の熱さに堪えず、下駄穿げたばきのまま風呂に入って、遂に釜を踏み破る話が『膝栗毛』の一趣向になっているが、この句は湯がぬるくなっているから
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
自炊する浴客が多い。宿では部屋だけでも貸す。それに部屋付のかまどが具えてある。浴客は下駄穿げたばきのまま庭からすぐ楼梯はしごだんを上って、楼上の部屋へ通うことも出来る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と菅が言ったが、捨吉はそれを打消して、庭から茶の間の方へ廻って一緒に下駄穿げたばきのまま腰掛けた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学校の日課を終ると、直ぐ其足で出掛けたので、丑松はまだ勤務つとめの儘の服装みなりで居る。白墨と塵埃ほこりとで汚れた着古しの洋服、書物やら手帳やらの風呂敷包を小脇に抱へて、それに下駄穿げたばき、腰弁当。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)