一頓挫いちとんざ)” の例文
それが研究所での実験の一頓挫いちとんざと同時に来た。まだ若く研究にこうの経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それらの事情はこの事業に一頓挫いちとんざを来たしたが、春一の嗣子左太郎と別家片桐衛門かたぎりえもんとが同門の人たちの援助を得て、これを継続完成した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしはむなしく終吉さんのやまいえるのを待たなくてはならぬことになった。探索はここに一頓挫いちとんざきたさなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのころ、私の結婚の話も、一頓挫いちとんざのかたちであつた。私のふるさとからは、全然、助力が来ないといふことが、はつきり判つてきたので、私は困つて了つた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
しかもこれを原因たらしめた此方こちらの弱味に、栄養の欠乏と気力の減退、さらにつけ加えて希望と信仰との、目に見えぬ急激なる一頓挫いちとんざがあったのではないかと悲しまれる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
イヤ宣告に容喙ようかいすることは許さぬ。——とにかくマッチが日本人の手に残らなかったのは何よりである。それがもし調べられたりすると、われわれが重大使命をはたす上に一頓挫いちとんざを来たすことになる。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし彼の待ち設けた冒険談はこれで一頓挫いちとんざきたしたも同然なので、一人自分のへやに引取ろうとすると、森本は「どうもすみません、御苦労様でした」と云いながら、またあとから敬太郎について来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の研究に一頓挫いちとんざが来そうな気持がしだいに深まっていった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此所で彼は一頓挫いちとんざを来した。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
王室回復の志をいだく公卿たちとその勢力を支持する長州藩とがこんなに京都から退却を余儀なくされ、尊王攘夷を旗じるしとする真木和泉守まきいずみのかみらの討幕運動にも一頓挫いちとんざを来たしたについて
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)