いまし)” の例文
「聡明叡智、之を守るに愚をもってせよ」と古人がいましめているのはそこです。あのエスペラントの初祖ザメンホフはいっております。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
別れる際に南日君から呉呉くれぐれも血気の勇にはやって冒険してはいけないといましめられたので、すっかり子供に返って何だか悲しいような気がした。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
然るに頃者このごろ米国の宣教師某を訪ひたる時、其卓上に日常のいましめを記せるを見る。其中に言へる事あり、病ある人を友として親しむ可からずと。
漫言一則 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その自由美を不自由な見方に封じてはすまぬ。だから民藝に執する者は、民藝を見失う者である事を、お互によくいましめたい。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ある日私は崖下の子供たちの声に誘われて母のいましめを破って柳屋の店先の縁台に母よりも懐かしかったお鶴の膝に抱かれた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
時に帝諸将士をいましめたまわく、むかし蕭繹しょうえき、兵を挙げてけいに入らんとす、しかそのしもに令して曰く、一門のうち自ら兵威を極むるは、不祥の極なりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、自分でいましめたりすることもあるが、決して、悪い肚があったり、軽薄でいうのではないから、自分では、さしたることとも思っていない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このごろの源氏の心は明石の浦へ傾き尽くしていた。手紙にも姫君を粗略にせぬようにと繰り返し繰り返しいましめてあった。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
父の弔合戦、父が討死の処に死のうとの血相すさまじい有様を貞清見て、貝を吹いて退軍を命じ、犬死をいましめて、切歯するのを無理に伴い帰った。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どうぞ、あなたにおく手紙てがみにことよせて、私がくづれやすい自分の努力どりよくいましめているものと、失禮しつれいをおゆるし下さい。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
チベット人の癖 五月三十日駅馬えきばを雇いシン・ゾンカーを出立しゅったつしましたが、その道々において荷持にもちのテンバを少しくいましめなければならん事があったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私もまた、東雲師から、風雲はこういって我々をいましめられた、といってその話を聞かされたものであります。それで、私のあたまにも、この言葉が残っている。
劇烈欝勃うつぼつの行為を描き、其主人公はおほむね薄志弱行なりし故に、メルクは彼をいましめていはく、かくの如き精気なく誠心なき汚穢をわいなる愚物は将来決ツして写すなか
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
山城やましろ相楽郡木津さがらぐんきづ辺の或る寺に某と云う納所なっしょがあった、身分柄を思わぬ殺生好せっしょうずきで、師の坊のいましめを物ともせず、いつも大雨の後には寺の裏手の小溝へ出掛け
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
と丁稚をいましめて奥に這入りましたが是まで身柄のある画工でも書家でも、呼びにやると直に来たから、高の知れた指物職人とあなどって丁稚をったのは悪かった
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さいわい近くにわしの住いがござる、荒屋あばらやではあれど、此処よりはましじゃ、それに君子は危きに近寄らず、増上慢ぞうじょうまんは、御仏みほとけもきつくおいましめのはずではござらぬか
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それ故に行く末わが氏子たらん者は、忘れても麻は作るなというおいましめで、今に一人としてこれにそむく者はないそうです。(北野誌。滋賀県栗太くりた郡笠縫村川原)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
姦淫かんいんするなかれ、処女を侵す勿れ、あによめを盗む勿れ、その他一切の不徳はエホバの神のいましむるところである。バイロンの一生は到底神の嘉納よみするものとも思われない。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
付けては教育家の教育とは即ち私自分で今後どういう教育を我が身に施そうかと大きな声で自分をいましめるに当るので、もしこの中に無礼なことを言いましたならば
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
古人が女子の節操をいましめたのは社会道徳の制裁よりは、むしろ女子の独立を保護する為であるということ、一度肉を男子に許せば女子の自由が全く破れるということ
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その洒堂をおしえたるもこれらの佳作をしりぞけたるにはあらで、むしろその濫用をいましめたるにやあらん。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼は縁も由縁ゆかりも無き蝙蝠こうもり傘屋に入らんとす「君それは門違いで無いか」と殆ど余の唇頭くちびるまでいでたれどこゝが目科のいましめたる主意ならんと思い返して無言のまゝに従い入るに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
君の今言った秋茄子を嫁に食わせるなという俗諺ことわざも味がいからという訳であるまい、多分妊娠前にんしんぜんや妊娠中の若い女に毒だから食べさせるなという親切ないましめだろう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
妾の所為しょいいましめ給いしほどなれば、幼友達おさなともだちの皆ひとして、子をぐる頃となりても、妾のみは、いまだあるべきものをだに見ざるを知りて、母上はいよいよ安からず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
以てたすけてつかはすにより有難く思へと云聞いひきかせ居たるに此家の者ども出來り先生さうは仰せらるれども後日のいましめなれば少し私どもにも御任せあれ斯して呉んと手に/\毛を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
居士はかつて余らが自己の俳句をおろそかにするのをいましめてこういう事を言ったことがある。自分はたといどんな詰まらぬ句であっても一句でもそれを棄てるに忍びない。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そうかといって、それを叱りいましめて、恥をかかせて追い返すほどの非人情も、発揮ができない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お前の武勇聡明にはまこと私も頭を下げる。これについては一言もない。ただ将来注意すべきは、女の色香これ一つだ。これをいましむる色にありと既に先賢も申されておる」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「千羽に一羽の毒がある」と云ってこの鳥の捕獲をいましめた野中兼山のなかけんざんの機智の話を想い出す。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
藤野さんは、何學科でも成績がかつた。何日いつであつたか、二年生の女生徒共が、何か授業中に惡戲いたづらをしたといつて、先生は藤野さんを例に引いていましめられた事もあつた樣だ。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
せめて側にある雑誌でも読みたいのであるが、院長さんのいましめを厳格に執り行ふ看護婦さんに遠慮して、婦人雑誌や三越タイムスの写真版の所ばかりを観るのを楽みにして居る。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しばしば見かえりて何かことばをかけんとして思いかえして行く老人あり、振りかえりながら「死して再び花は咲かず」と俚歌りかを低声に唄うてあんに死をとどむる如くいましめ行く職人もあり。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
民族間の戦争をいましめ、平和を説いたものであるが、文字に書かれた、恐らく最古のものであろう。旧約にはいっている。しかし、そういう昔のことにまでかゝずらっているヒマがない。
反戦文学論 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
脅かしてやりまして、以後そんな不謹慎な事をしないようにいましめてやりますので
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
わし自身の、増上慢ぞうじょうまんを自らいましめようための、御神霊への誓いだったのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その翌日あたしは、藤木さんのチンコッきりを立って見ていてはいけないといましめられた。そのついでに母と誰かが話していたのだが、チンコッきりおじさんは、職人としてもくないのだそうだ。
これはみだりに虚説を信ずる者をいましめた譬喩だが、この話の体はいわゆる逓累話キユミユラチブ・ストリーというもので、グリンム、クラウストンその他の俚話をあつめた著書に多く見える、「クラウストン」より一例を引くと
「七度を七十倍するまで赦せ」と教えた耶蘇ヤソは「一つの目汝を罪におとさば抜き出して捨てよ」といましめた同じ人である。「罪の価は死なり」とあるごとく、罪を犯せば魂は必ず一度は死なねばならぬ。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これすなわち帝王、官長より父母、師長にいたるまで、ともにこれを敬すべき義なり。五に曰く、殺すなかれ。人およそ忿恨ふんこん詈罵りばより人をきずつけ、人を害すべきことをいましむ。六に曰く、邪淫を行うなかれ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
ゆえにその効たるや、智を増すことは史乗しじょうかず、人をいましむるは格言に如かず、富を致すは工商に如かず、功名を得るは卒業の券に如かざるなり。ただ世に文章ありて人すなわちもって具足するにちかし。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ますにわたかぜさだかにきこえぬさて追手おつてにもあらざりけりおたか支度したく調とゝのひしか取亂とりみださんはのちまでのはぢなるべし心靜こゝろしづかにといましめることばふるひぬいたましゝ可惜あたら青年せいねんはなといはゞつぼみえだいまおこらん夜半よは狂風きやうふう
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お隣のおばさんにも下し賜わらず長火鉢の前の噛楊子かみようじちょっと聞けば悪くないらしけれど気がついて見れば見られぬ紅脂白粉べにおしろいの花の裏路今までさのみでもなく思いし冬吉の眉毛のむしくいがいよいよ別れの催促客となるとも色となるなとは今のいましめわが讐敵あだにもさせまじきは
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
また空に囚われ、虚無に陥るものに対しては、「空は色に異ならず」、「空は即ち是れ色」だといって、これをいましめているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
せた蒼白い顔をことさら真面目まじめにしていましめた。なぜということはなしに私は町っ子と遊んではいけないものだと思っているほど幼なかった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「上人のお部屋だ……」さまたげてはならないといましめながらも、彼は、次の間まで忍ぶように入って行った。——何を思い出されて、この深夜に。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは信仰と同じである。宗教は貧の徳を求め、智におごる者をいましめるではないか。素朴な器にこそ驚くべき美が宿る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
宮中へお呼びになることは亭子院のおいましめがあっておできにならず、だれにも秘密にして皇子のお世話役のようになっている右大弁うだいべんの子のように思わせて
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この我がおしえおぼえて決してそむくことなかれとねんごろにいましめ諭して現世このよりければ、兄弟共に父の遺訓にしたがひて互ひに助けあひつつ安楽に日をくらしけり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その洒堂をおしへたるもこれらの佳作をしりぞけたるにはあらで、むしろその濫用らんよういましめたるにやあらん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
決してそういう事を言うてはならぬといましめたに拘わらず、昨夜泊った所であのお方はどこの方かとたずねた時分に「ありゃラマの化身けしんである」と答えたのを聞いたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)