獣物けもの)” の例文
旧字:獸物
わたしたちは、さかな獣物けものなかんでいるが、もっと人間にんげんのほうにちかいのだから、人間にんげんなかはいってらされないことはないだろう。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
腕の何処どこかに触れたらしく、あっと低く、うめく声がしたと思うと、黒影は咄嗟とっさに二つに分れて、暗殺者が、傷ついた獣物けものの素早さで、闇に消え行く姿が見えた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
で、ジヤツクは起き上つて提灯ちょうちんに火をつけてみましたが、何故獣物けものが騒ぎ出したのか分りませんでした。
振り払い、振り払い、矢を負った獣物けもののように、私は夢中になって狭い急な梯子段はしごだんを駆けおりた。
実はそうではなかったのかも知れないけれど、すねに傷持つ庄太郎には、そうとしか考えられなかった。第一に、追いつめられた獣物けものの様な庄太郎の様子が、相手を驚かせた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といふおはなしを考へました、これ昔風むかしふう獣物けものくちくといふお話のすぢでございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あとで聞けば、硫黄でえぶし立てられた獣物けものの、恐る恐る穴の口元へ首を出した処をば、清五郎が待構えて一打ちに打下うちおろす鳶口、それがまぐれ当りに運好くも、狐の眉間へと、ぐっさり突刺って、奴さん
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
さかなや、また底深そこぶかうみなかんでいる、あらい、いろいろな獣物けものなどとくらべたら、どれほど人間にんげんのほうに、こころ姿すがたているかしれない。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その様な感情を起させるものは、空を覆ってのしかかって来る様な、森の雄大さにもありましょう。或は又え立つ若葉から発散する、あの圧倒的な獣物けものの香気にもありましょう。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
捕り方たちは、御用提灯ごようぢょうちんを振りかざして、獲物えものを狙う獣物けもののように、背中を丸めるようにして、押しつけて来るのだったが、さりとて急には飛び込めない。相手は何しろ、当時聞えた神出鬼没の怪賊。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人間にんげんんでいるまちは、うつくしいということだ。人間にんげんは、さかなよりも、また獣物けものよりも、人情にんじょうがあってやさしいといている。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんなにたかやまですから、人間にんげんのぼってくることもなければ、めったに獣物けもののぼってくるようなこともなかったのです。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よるになると、とおくで獣物けもののほえるこえと、永久えいきゅうだまってつめたくかがやほしひかりと、いずこへともなくけてゆく、無情むじょうかぜおといたばかりであります。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうおもって、くも姿すがたをながめていると、自分じぶんるかぎりのやまにすむ獣物けものも、小鳥ことりも、みんなそらくもの一つ一つにることができるのでありました。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
長年ながねんやまんでいて、獣物けものにもなさけがあり、また礼儀れいぎのあることをいていた主人しゅじんは、くまが、さけいにきたのだということだけはわかったのです。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くらとうなかは、つめたい、しめった空気くうきがみなぎっていました。また階段かいだんには、ひとほねだか、獣物けものほねだかわからぬようなものが、らばっていたりしました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひかりあたたかにらしています。波影なみかげが、きらきらとひかっています。とりもめったにんでこなければ、そのちいさなしまには、ひとも、獣物けものんでいませんでした。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、あわれな人間にんげん生活せいかつさまや、えにないている、あわれな獣物けものなどの姿すがたをながめたのであります。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
この年老としとったさるは、この近傍きんぼうやまや、もりにすむ、獣物けものや、とりたちから尊敬そんけいされていました。それは、このやま生活せいかつたいして、おおくの経験けいけんっていたためです。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちょうど、ここからると、あの太陽たいようしずむ、渦巻うずまほのおのようなくもしただ。そのしまくと、三にんはひどいめにあった。あさからばんまで、獣物けもののように使役しえきされた。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
やまなかはいりゃ、くさもあるし、みずもあるし、もあるし、あそんでいてらくらしてゆけるじゃないか。そして、獣物けものおうさまにならないともかぎらないじゃないか。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
きたさむくにらえられた、このちからつよ獣物けものは、ものにされるために、みなみほうおくられる途中とちゅうにあったのです。しかし、くまには、そんなことはわかりませんでした。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのほか、なまけものの獣物けものや、いじわる動物どうぶつはありましたが、自分じぶんかってやさしくはなしをする、あのにわとりのようなともだちはなかったのです。ほしにわとりのことをおもしていました。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
やまへいけば、たくさん、獣物けものがすんでいるのだね。」と、武男たけおは、いいました。
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
だれか一人ひとりわかいもののなかにいなければならなかったのは、ちょうど、人間にんげん社会しゃかいばかりでなく、獣物けものあつまりのなかでも、経験けいけんんだ、年寄としよりがいて、野原のはらから、野原のはらへ、やまから
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また白い毛の小さな獣物けものが、藪に走って行くのを見た。枯木というのは、幾年か前に雷が落ちて、枯れた木である。頭が二つの股に裂けて、全く木の皮が剥げ落ちて、日光に白く光っていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)