無之これなく)” の例文
尚お条件として是非年内に挙式の必要有之旨これあるむね、如何の次第に御座候哉。母も案じ居候間、委細の事情お包み無之これなくお知らせ被下度候云々くだされたくそうろううんぬん
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人の上に立つ人にて文学技芸に達したらん者は、人間としては下等の地にをるが通例なれども、実朝は全く例外の人に相違無之これなく候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしそれは今更後悔致し候とて何のせん無之これなく候えば、貴兄と同様今後いかに処すべきかを定め、それによって奮励するのほかなく候
師を失いたる吾々 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この間などは「其後そのご別に恋着れんちゃくせる婦人も無之これなく、いずかたより艶書えんしょも参らず、ず無事に消光まかり在りそろ間、乍憚はばかりながら御休心可被下候くださるべくそろ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実と存じ此方へ渡り承り候へば、右の通にて無之これなく、マルセイロ吊され、穴の中にて泣きわめき苦しみ相果て候由を承り、伴天連も驚き申候
右御許し下されたくしこの一事を御承引下され候わずば、妾は永遠に君を見ることかなわず、これに過ぎたる悲しみは無之これなく候。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
茶会御出席に依り御心魂の新粧をも期し得べく、決してむだの事には無之これなく、まずは欣然きんぜん御応諾当然と心得申者に御座候。頓首。
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
も憚らずいぎたなく熟睡に及びたる一埒いちらつ何とも申訳の言葉も無之これなく朧気乍おぼろげながら昨日の御話に依れば令閨れいけい御死去に関して何か疑惑を
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
倅幸吉には何の罪も無之これなくくまでも成瀬屋をうらむはこの冠兵衛に候。その証拠として近々一家をみなごろしに仕る可く随分要心堅固に被遊可あそばさるべく候 頓首
切害仕り候にいさゝか相違無之これなく恐入おそれいりたてまつり候之に依て如何樣の御仕置に仰付られ候とも御領主樣ごりやうしゆさまへ對し御恨おんうらみは少も御座なく候以上
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
尤もこれは敵にては無之これなく、火事を見に集まりたる人々のよし、又敵は伊賀を引きつれ、御最期以前に引きあげ候よし、いづれも後に承り申し候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ今論文校閲中にて熟読のひまも無之これなくただ御高覧のために御廻し致候。『ホトトギス』へのせるともよすともその辺は勿論、御随意に候。以上。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(彼の件)を見届け候以上はの家に最早用は無之これなく且つ居ては御身おんみあやうく候まま、明日にもひまをお取りなさるべく候——
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『——万一、上杉家の人数くり出しの節。——一党引揚げの場所。——その他の調べ、こちらに於ては手抜かり無之これなく
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒井忠学から家老本多意気揚いきりへ、「九郎右衛門は何の思召おぼしめし無之これなく以前之通可召出いぜんのとほりめしいだすべし且行届候段満足褒美可致かつゆきとどきそろだんまんぞくほうびいたすべし、別段之思召を以て御紋附麻上下被下置あさがみしもくだしおかる
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この不始末、若年の其許に申聞け候は汗顔とも慚愧ざんきとも申すべきよう無之これなく、唯々愚しき父を御憫察びんさつのほど願入候。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その年来を聞召し候へば、十五六にて諸人を勧め、斯様かようの儀を取立て申す儀にては無之これなく候と思召し候条、四郎が名を借り取立て申すもの有之これありと思召し候。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
(前略)一昨々年春以来他へ転居候為め、御書面昨日やうやく落手致し候次第、その後の御不沙汰ごぶさた何とも申訳無之これなく候。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
国家若しくは民族に対する愛も、世の道学先生の言ふが如き没理想的消極的理窟的の者には無之これなく、実に同一生命の発達に於ける親和協同の血族的因縁に始まり
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ことに私をば娘のやうに思ひ、日頃ひごろの厚きなさけは海山にもたとへ難きほどに候へば、なかなかことばを返し候段にては無之これなく、心弱しとは思ひながら、涙のこぼれ候ばかりにて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
行蔵こうぞうは我に存す、毀誉きよは他人の主張、我にあずからず我に関せずとぞんじそうろう各人かくじん御示おしめし御座ござそうろうとも毛頭もうとう異存いぞん無之これなくそうろうおん差越之さしこしの御草稿ごそうこう拝受はいじゅいたしたく御許容ごきょよう可被下くださるべく候也そうろう
皆目見当も附かぬ事なれば壁際に難を避けんとする処、陳は手前の背後より抱付だきつきて匕首を突刺し其まま何処いずくへか逃去申候にげさりもうしそうろう、たいへんなる痛手にて最早余命幾許いくばく無之これなく存候ぞんじそうろう
一筆ひとふでしめし上げまいらせそろ。さてとや暑さきびしくそうろうところ、皆様には奈何いかが御暮しなされ候や。私よりも一向音信いたさず候えども、御許おんもとよりも御便り無之これなく候故、日々御案じ申上げ候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふで申上まいらせ候。その後は御ぶさた致し候て、何とも申わけ無之これなく御免下されたく候。私事これまでの住居すまい誠に手ぜまに付このじゅう右のところへしき移り候ままおん知らせ申上候。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金箔きんぱくを押した磔刑柱はりつけばしらを馬の前に立てて上洛したのは此時の事で、それがしの花押かきはん鶺鴒せきれいの眼のたまは一月に三たび処をえまする、此の書面の花押はそれがしの致したるには無之これなく
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一札入申候証文之事いっさついれもうしそうろうしょうもんのこと、私儀御当家様とは何の縁びきも無之これなく、爾今門立小唄かどだちこうたその他御迷惑と相成可一切事あいなるべきいっさいのこと堅く御遠慮申上候、若し破約に於ては御公儀へ出訴なされ候も夢々お恨申す間敷まじく
春雪霏々ひひ、このゆうべに一会なかるべけんやと存じ候。万障を排して、本日午後五時頃より御参会くだされたく、ほかにも五、六名の同席者あるべくと存じ候。但し例の俳句会には無之これなく候。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一簡いっかん奉啓上候けいじょうそうろう余寒よかん未難去候得共いまださりがたくそうらえども益々御壮健恐悦至極きょうえつしごく奉存候ぞんじそうろう然者しかれば当屋敷御上おかみ始め重役の銘々少しも異状かわり無之これなく御安意可被下候ごあんいくださるべくそうろうついては昨年九月只今思いだし候ても誠に御気の毒に心得候御尊父を
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昨夜つつがなく帰宅致し候まま御安心被下度くだされたくたびはまことに御忙しき折柄種々御心配ばかり相懸け候うて申訳も無之これなく、幾重にも御詫おわび申上候、御前に御高恩をも謝し奉り、御詫おわびも致し度候いしが
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
小生なども其つもりにて、日々勉学いたし候事に候。物書くこともあながち多く書くがよろしきには無之これなく、読む方を廃せざるかぎり休居やすみおり候ても憂ふるに足らずと存じ候。歳暮御忙しき事と御察し申上候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「拝啓唯今御著『閑話休題』拝受大いにかたじけなく、今度の読書の材料豊富感謝奉り候、小説に御精根傾けあらるる事尊敬慶賀無上に御座候、小生晩春よりかけて元気無之これなく候、今度元気回復いたしたし、万々頓首、」
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
赤坂の方も何ぞかわり候事も無之これなく先日より逗子ずしの別荘の方へ一同みなみなまいり加藤家も皆々興津おきつの方へまいり東京はさびしきことに相成り参らせ候 いくも一緒に逗子にまかり越し無事相つとめおり参らせ候 御伝言おんことづけの趣申しつかわし候ところ当人も涙を
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人の上に立つ人にて文学技芸に達したらん者は人間としては下等の地に居るが通例なれども、実朝は全く例外の人に相違無之これなく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
もっとも世俗的な浅薄せんぱくな考えにのみ焦慮しょうりょ致し、一歩立ちいって根本的に考えるという事ほとんど無之これなく、はずかしき次第に候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
陳者のぶれば蒔岡様之件その後協議申候処御縁無之これなく申候間何卒御先方様へその旨御伝願上候御都合も有之候事ゆえ取急ぎ御返事申上候
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貴殿入手の歡喜天は、三國傳來の秘佛にして、俗人の私すべきものに無之これなく、早速當方に引渡され度く此の段確と申入候。
老生もとより愚昧ぐまいいえども教えて責を負わざる無反省の教師にては無之これなく、昨夕、老骨奮起一番して弓の道場を訪れ申候。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「明日参上いたすべくそうろうに付、ほかに御用事なくば、御待下されたく候。もっとも当方も用事にては無之これなく候」としてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
秀林院様は少しもお優しきところ無之これなく、賢女ぶらるることを第一となされ候へば、お側に居り候ても、浮きたる話などは相成らず、兎角とかく気のつまるばかりに候あひだ
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
赤坂傳馬町二丁目長助店元麹町三丁目浪人藤崎道十郎後家願人みつ 其方儀願ひ出候目安めやす取調とりしらべる處事實じじつ相違さうゐ無之これなくかつ永年えいねんをつと無實むじつ罪科ざいくわあひしをなげかはしく心得貞節ていせつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
貴書中既に就職面会にて銓衡委員と衝突したるやの箇条有之かじょうこれあり、小生、有之哉これあるかなと案をち申候。元来人間は社会に尽す為め業務に従うに無之これなく、全く自家生計の為めに御座候。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その後は存外の御無沙汰、平に御海恕可被下くださるべく候。御恵贈の『新俳句』一巻今日学校にて落手、御厚意の段難有奉拝謝候。小生爾来俳境日々退歩、昨今は現に一句も無之これなく候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
大事の御身までも世のすたり物に致させ候かと思ひまゐらせ候へば、何と申候私の罪の程かと、今更御申訳おんまをしわけの致しやうも無之これなく、唯そら可恐おそろしさに消えも入度いりたぞんじまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かつまた、此方共は、籠城して、途を開くべき為には無之これなく、ただ各〻城と共に自滅の覚悟にて候。
門北お御所のかたに当り一道の火気を発し、甚だ騒々しく候間、これ阪兵への内応と申居り候間、忽に鎮定、その内に伏見の砲声も追々遠く相成り、京軍勝利の様子に相成り候まゝ終夜砲声にぶる事無之これなく
鳥羽伏見の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
就而者ついては御草稿を御遣し下され候はゞ骨折ほねおり拝見仕可く候。此頃高野俊蔵よりも、近業の詩文ついを成し候得共そうらえども一向相談する人も無之これなく何卒なにとぞ旧稿と思召し御遠慮なく御刪正ごさんせい下され度く候。箇様かよう申し来り候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幾百年の間常に腐敗したる和歌の上にも、特に腐敗の甚しき時代あるが如く、われらの如き常病人じょうびょうにんも特に病気にかかる事有之これあり閉口之外無之これなく候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それがし今年今月今日切腹して相果あいはてそろ事いかにも唐突とうとついたりにて、弥五右衛門老耄ろうもうしたるか、乱心したるかと申候者も可有之これあるべくそうらえども、決して左様の事には無之これなくそろ
「………何分この頃は物価高く、二三年前とは驚くほどの相違にて、さしたる贅沢ぜいたくを致さざるにも不拘かかわらず、月々の経費に追われ、都会生活もなかなか容易に無之これなく、………」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私事むなしく相成候とも、決しての病にては無之これなく御前様おんまへさま御事おんこと思死おもひじに死候しにさふらふものと、何卒なにとぞ々々御愍おんあはれ被下くだされ其段そのだんはゆめゆめいつはりにては無御座ござなく、みづから堅く信じ居候事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)