はま)” の例文
旧字:
叔父おじさんのいえは、ここから二十もあちらのはまなんだ。たいだの、さばだのあみにかかってくるって、ぼくのおとうさんが、いった。」
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
右は湖水の三津みつはま、左は叡山延暦寺えいざんえんりゃくじへの登り坂。人々の着ているみのは、吹きおろす風、返す風に、みな針鼠はりねずみのようにそよぎ立った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東海道浦賀うらが宿しゅく久里くりはまの沖合いに、黒船のおびただしく現われたといううわさが伝わって来たのも、村ではこの雨乞いの最中である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ガンたちは、牧場まきばへいって、たべものをひろいましたが、ニールスははまべへいってかいを集めました。そこには、貝がたくさんありました。
=同= 同婦人は、めいはまなる実家に、近き親戚のすくなき旨を洩らせるが、田舎の富家には往々にして此の如く血縁的に孤立せる家系あり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
喜作の家内のおはまは、二三歩うしろにいたが、喜作の声におどろいて駆けつけた。喜作は、顔をまっ赤にして、よたよた足踏みをしている。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
するとその頃、あみはまから出て来て、市中をさまよい歩く白痴の乞食こじき、名代のダラダラ大坊だいぼうというのが前に立ちふさがった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
すみさんは、休屋やすみやはまぞひに、恵比寿島ゑびすじま弁天島べんてんじま兜島かぶとじまを、自籠じごもりいは——(御占場おうらなひばうしろにたる)——かけて、ひとりでふねした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平八郎は格之助の師藤重ふぢしげせがれ良左衛門りやうざゑもん、孫槌太郎つちたらうの両人を呼んで、今年の春さかひだうはまで格之助に丁打ちやううちをさせる相談をした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
刷毛はけいたようなゆみなりになったひろはま……のたりのたりとおともなく岸辺きしべせる真青まっさおうみみず……薄絹うすぎぬひろげたような
私にはそれが第一不思議だった。私はその二日前に由井ゆいはままで行って、砂の上にしゃがみながら、長い間西洋人の海へ入る様子をながめていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うですよ。この辺一帯は元寇の旧蹟で持ち切っています。多々良ただらはまがこの海岸伝いですから、此処らも矢っ張り古戦場かも知れませんね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
乳母のおはまには、郷里では久しく文通をおこたっていたが、いざ上京というときになって、ふと彼女かのじょのことを思いおこし、みょうに感傷的な気分になった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
のちにうたはまにおいてその同じ桂の余木よぼくをもちいてらせられたのが、くだんの薬師やくし尊像そんぞうじゃとうけたまわっておる。ハイ、まことに古今ここん妙作みょうさく
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
門は扉がついていない古い二本の木の柱で、柱と柱の間から、由比ゆいはまに砕ける波がやみにカッキリと白い線になって見え、強い海の香が襲って来ました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
而して相変らず医を業としつゝ、其熬々いらいらもらす為に「はまゆふ」なぞ云う文学雑誌を出したり、俳句に凝ったりして居た。曾て夏密柑を贈ってくれた。余は
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからあたらしいおわんのおふねに、あたらしいおはしのかいをえて、住吉すみよしはまから舟出ふなでをしました。おとうさんとおかあさんははまべまで見送みおくりにってくださいました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
待て待て、さきはま鍛冶屋かじやばんばじゃの、海鬼ふなゆうれいじゃの、七人御崎みさきじゃの、それから皆がよく云う、弘法大師こうぼうだいし石芋いしいもじゃの云う物は、皆仮作つくりごとじゃが、真箇ほんとの神様は在るぞ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はま通りを歩いていると、ある一軒の魚の看板の出た家から、ヒュッ、ヒュッ、と口笛くちぶえが流れて来た。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると横浜よこはま懇意こんいな人が親切に横浜よこはま出稼でかせぎにるがい、うやつてゐては何時いつまでも貧乏してゐる事ではらん、はまはまた贔屓強ひいきづよところだからとつてくれましたので
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
このありさまに漁師りょうしはすっかりおじけづいて、おどおどしながら、はまべに立って、いいました。
五 遠野郷より海岸のはま吉利吉里きりきりなどへ越ゆるには、昔より笛吹峠ふえふきとうげという山路やまみちあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひとりではまへ行ってもいいけれど、あすこにはくらげがたくさんちている。寒天かんてんみたいなすきとおしてそらも見えるようなものがたくさん落ちているからそれをひろってはいけないよ。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「おい、こゝだ」と声をかける浜田はまだはま六の顔は、屈托のない笑いに崩れていた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
かつて夜見よみはまは綿も植えられ、その和田村あたりにはかすり手機てばたも動きましたが漸次ぜんじ衰えました。絣といえば「倉吉絣くらよしがすり」を想い起しますが、これも残念なことにほとんど歴史を終りました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
マンは、三次と別れ、蛭子通えびすどおりから、原田雲井の家のあるはままちへ曲った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その病後の療養に、私は小田原の御幸みゆきはまへ一と月ばかりほど転地していたことがあった。ああ、あの頃だったなと思うと、私の追憶には青い青い広重ひろしげの海の色や朝夕の潮騒の音が響いて来る。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
熱田を七里の渡しの渡頭ととうまで行って、更に引返して、呼続よびつぎはま裁断橋さいだんばし——それから、まっしぐらに、古鳴海こなるみを突破して、ついに、ここまで落着いたのだから、前後左右を忘れるほどに疲れきって
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あ、蛸市たこいちか。するとねえさんはおはまさんかい、道理で——」
一月元日 由比ゆいはま散歩。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
とおい、とおい、むかしのこと、ある武士ぶしが、このはまでかもめをました。しかし、は、すこしはずれて、片方かたほうつばさきずつけたばかしです。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
過ぐる嘉永かえい六年の夏に、東海道浦賀の宿、久里くりはまの沖合いにあらわれたもの——その黒船の形を変えたものは、下田しもだへも着き、横浜へも着き
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また我れ、おきはまを打ち出でし時、夜更くるまで酒を飲み、水の欲しく候ひしを、水をも呑まで打ツて出で、炎の中に、斬り死にして候ひし……
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門外おもての道は、弓形ゆみなり一条ひとすじ、ほのぼのと白く、比企ひきやつやまから由井ゆいはま磯際いそぎわまで、ななめかささぎの橋を渡したようなり
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたりは、やわらかい、美しいすなでおおわれている、さびしいはまべに立っていました。海べにそって、テンキ草のえている砂丘さきゅうが、長くつづいています。
なにやら由井ゆいはまらしい景色けしきである……。』わたくしはそんなことをかんがえながら、格別かくべつけわしくもないその砂丘すなやまのぼりつめましたが、さてそこから前面ぜんめん見渡みわたしたとき
……ソ……そこだて……そこがトテモ面白いこの話の眼目になるところで、いては大正の今日に於けるめいはま事件の根本問題にまで触れて来るところなんだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女が始めて由比ゆいはまの海水浴場へ出かけて行って、前の晩にわざわざ銀座で買って来た、濃い緑色の海水帽と海水服とを肌身に着けて現れたとき、正直なところ
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
幸い、肥前ひぜん唐津からつ多々羅たたらはまと云う名所があるから、せめて三平の戸籍だけでもそっちへ移してくれ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼくがおはまの家に里子さとごにやられたのが、そのそもそもの原因であることに気がついた時であった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
岩田屋いはたや旦那だんなれられてはまつて、まつさんと喧嘩けんくわアしてかへつてた時になんとおひだえ、あゝ口惜くやしい、真実しんじつ兄弟きやうだいにまで置去おきざりにされるのもおれが悪いばかりだ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
このありさまを見て、漁師はおそろしくなりました。けれども、はまべに立って、いいました。
五日の月はほんのりと庭の白沙はくさを照らして、由比ゆいはまの方からはおだやかな波の音が、ざアーア、ざアーアと云うように間遠まどおに聞こえていた。それはもうこくに近いころであった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それそれ、奥州のはてそとはまというところだと聞いている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
季節きせつはずれに、こんなにいろいろなさかながとれたのも、みんなふえのおかげだ。」といって、人々ひとびとは、はまかえってからさかもりをはじめました。
青い玉と銀色のふえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
大津の打出うちではまで、あの雷の落ちた晩に、雨宿りをしていたかわら小屋で、ゆくりなくこの人を見て、お綱は初恋を知った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が浦賀うらが久里くりはまに到着したころは、ちょうどヨーロッパ勢力の東方に進出する十九世紀のなかばに当たる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、百年めに一どずつ、むかしのままのはなやかなありさまで、海の底から浮かびあがってきて、かっきり一時間だけ、このはまべにじっとしているんです。
たゞ南谿なんけいしるしたる姉妹きやうだい木像もくざうのみ、そとはま砂漠さばくなかにも緑水オアシスのあたり花菖蒲はなあやめいろのしたゝるをおぼゆることともえ山吹やまぶきそれにもまされり。おさなころよりいま亦然またしかり。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おれはこう考えたから、行きましょうと答えた。それから、学校をしまって、一応うちへ帰って、支度したくを整えて、停車場で赤シャツと野だを待ち合せてはまへ行った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)