つか)” の例文
これがさるほうちかいか、人間にんげんほうちかいかは、議論ぎろんがあるにしても、とにかく人間にんげんさるとの中間ちゆうかん動物どうぶつといつてつかへはありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
鍛冶かぢとき仕事しごとつかへてたが、それでもういふ職業しよくげふくべからざる道具だうぐといふと何處どこでもさういふれいすみやかこしらへてくれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
知らん顔をしていればつかえないようなものの、ここの細君の掃除法のごときに至ってはすこぶる無意義のものと云わざるを得ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
江戸の小咄こばなしにある、あの、「誰でもよい」と乳母うばに打ち明ける恋いわずらいの令嬢も、この数個のほうの部類にいれてつかえなかろう。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
……かはあたり大溝おほどぶで、どろたかく、みづほそい。あまつさへ、棒切ぼうぎれたけかはなどが、ぐしや/\とつかへて、空屋あきやまへ殊更ことさらながれよどむ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昼間差しつかえがあって、乗馬できなかった日の夕刻は、旦那は晩飯をすましたのち、三太の手を引いて散歩することにしている。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
この歳にお父様が、世話をする人があって、小菅こすげの監獄署の役人になられた。某省の属官をしておられたが、頭がつかえて進級が出来ない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ウヰルソンの義弟といふのは、たけ七尺もあらうといふ背高男のつぽで、道を歩く時にはお天道様てんとうさまが頭につかへるやうに、心持せなかゞめてゐた。
「こんなに狭くちゃ、ほんとに寝苦しくて……。」大柄な浴衣を着たお銀は、手足のつかえる蚊帳のなかに起きあがって、うなるようにつぶやいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから向うの土手の上には何かしいらしい木が一本斜めに枝を伸ばしていた。それは憂鬱そのものと言っても、少しもつかえない景色だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
がすりのあはせに、あかおび竪矢たてや背中せなかうた侍女じぢよが、つぎつかへて、キッパリとみゝこゝろよ江戸言葉えどことばつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
このひとは、日本につぽん敍景じよけいうたの、まづはじめての名人めいじんといつてもさしつかへのないひとで、こののち次第しだいに、かうした方面ほうめんにすぐれたひとます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
と手をつかえました。このような事は今までに一度もありませんでしたので、いつもお帰りの時には玄関にお立ちになって
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
切腹と覚悟したる文治は、諸役人の姿を見るより門外に飛出し、あとに続く罪人一同を制しながら、ピタリと両手をつかえて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は生のキウリを噛りながらパンを頬張つてゐたが、妻の注視を享けると、食物が胸につかへてしまつて、嚥込のみこむことが出来なくなり、ギヨツとした。
川を遡りて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
何かつかえてでもいるのだろう? と、ぐッと力を入れて引いた拍子に、どしん! 重そうな音がして、大きな荷物が、赤い夜具と一緒に転がり出た。
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
料理を講義する人でも、持っていないのだから、一般家庭によい鉋を持っている家は一応ないと考えて差しつかえない。
だしの取り方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
スタニスラウスは一層居丈高になつて、のどつかえて眠つてゐる詞を揺り醒ますやうに、カラの前の方を手まさぐつた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
「親分、あつしの智慧でも、其處までは行くんですがね、その先は障子へ鼻がつかへたやうに、一と足も動けなくなる」
たちまうさぎちかづき、それをけやうとしてなかはうしましたが、あいちやんのひぢ緊乎しツかりつかへて駄目だめでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ガッチリ弓を棚に掛け、はかま両袖りょうそでをポンポンと払うと、静かに葉之助は射場を離れ、端然と殿の前へ手をつかえた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして鎮守ちんじゅ様が召し上がった後を頂戴ちょうだいする分には、何も差しつかえはなかろう。うむ、そうだ。……それにしても、村の人達に見つかっては、具合ぐあいが悪い………
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
鎌倉時代より元弘年間にわたったものなら参考にしてつかえなかろうというので、楠公の服装はその辺のものを材料にして決めたようなことでありました。
「そなたの方にひどうつかえることがあらば——誰か、是非とも逢わねばならぬ人でも待っておッて——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わかった。まだ胸はつかえているが、かくお前を歓迎する。(間。)しかし何の用があって此処ここへ来たのだ。
が、格之介は、飯も咽喉のどへは通らなかった。一杯食った飯が、もどしそうにいつまでも胸につかえていた。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
残して在た一つの紙包を、箱丁はこやへと云て婢の前へ投るように出したゞけは、秋元の女房が与って力ある所で、お礼をと婢が促して小歌と共に改めて手をつかえた時
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
討取うちとり幸之進殿に手向たむけまゐらせたし一ツには行末ゆくすゑながき浪人の身の上母公の養育にもさしつかへるは眼前がんぜんなり且敵を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その間、私はおちついて机に向ふ餘裕を失つて、爲事の方もすつかりつかへてしまつた。其處へ、頼んでおいた或る友人から斯ういふ家があるがどうかと言つて來た。
樹木とその葉:04 木槿の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「しかし学校は初めのうち丈けだよ。したところで天井てんじょうつかえているから、大したことはない」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
師匠のこと、玉藻のこと、それが胸いっぱいにつかえているのを、彼は努めて忘れようとしていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「——お待ちかねでいらっしゃる。何、そのままの支度でさしつかえありますまい。すぐ庭口へ」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
京都きょうとの某壮士或る事件を頼まれ、神戸こうべへ赴き三日ばかりで、帰るつもりのところが十日もかかり、その上に示談金が取れず、たくわえの旅費はつかいきり、帰りの汽車賃にも差支さしつか
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
不足ふそくてん適當てきたう外語ぐわいごもつ補充ほじうするのはつかへないが、ゆゑなく舊來きうらい成語せいごてゝ外國語ぐわいこくご濫用らんようするのは、すなはみづからおのれを侮辱ぶじよくするもので、もつてのほか妄擧まうきよである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「奥さん、かうやつて見ると、冬の最中でなければ、ソヴィエト行きはつかへないと思ひますな。——しかし興味の有るのは、ムッシュウ・ジッドの各年代の健康状態です。」
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
部屋の前を通越とおりこして台所へ行くか、それとも万一ひょっと障子がくかと、成行なりゆきを待つの一ぷんに心の臓を縮めていると、驚破すわ、障子がガタガタと……きかけて、グッとつかえたのを其儘にして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
立てば頭がつかえる、横になっても、足を楽々延ばせない、万里見透しの大虚空おおぞらの中で、こんな見すぼらしい小舎を作って、人間はその中に囚われていなければならない、戸外には夜に入ると
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
グッとしゃくさわって男の襟頸えりくびを引っ掴んで力任せに投げ出したんです、するとちょうど隧道トンネルつかえた黒煙が風の吹き廻しでパッと私たちの顔へかかったんでどうなったか一切夢中でしたけれども
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
なあふみや、金子のような貧乏人の子なら差しつかえないが、かりにもこれからは岩下の子として学校にあがるんだ。そのつもりでしっかり勉強するんだぞ。百姓の子にまけたり、恥かしいことを
「それが、かぶと幌骨ほろぼねなんだ」と云って、法水は母衣ほろを取りけ、太い鯨筋げいきんで作った幌骨を指し示した。「だって、易介がこれを通常の形に着ようとしたら、第一、背中の瘤起がつかえてしまうぜ。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
バクテリヤを植物だ、アミーバーを動物だとするのは、ただ研究の便宜べんぎ上、勝手に名をつけたものである。動物には意識があって食うのは気の毒だが、植物にはないから差しつかえないというのか。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
下を潜れば荷物がつかえる。わずかの距離を登るのに一時間を費した。果して測量の櫓が現れて来る。頻りにもがいている南日君を待ち合せて、三時に櫓の下で休みながら昼飯の残りとビスケットを平げた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
わたくしは息が出来ない位で、体は慄えて、詞はつかえます。
私は胸のつかえがいっぺんにおりて、嬉しさにふるえた。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
つかえる、支える、松の木に、木槿むくげ邪魔じやまだよ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかしとたんに胸のところでつかえました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで土間どまつかへて、「ういふ御修行ごしゆぎやうんで、あのやうに生死しやうじ場合ばあひ平氣へいきでおいでなされた」と、恐入おそれいつてたづねました。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一錢ひやくもねえから」と卯平うへいはこそつぱいあるもののどつかへたやうにごつくりとつばんだ。かれしわ餘計よけいにぎつとしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
反橋そりはしを渡る所で、先の人が何かにつかえて一同ちょっととまった機会を利用して、自分はそっと岡田のフロックの尻を引張った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
役人とか会社の重役とかの弁当箱には是非書いておきたいやうな文句だが、普通たゞの人には一寸咽喉のどつかへさうでけない。