所在ありか)” の例文
青年はそのはしばみの樹のそばの井戸の所在ありかを老人に訊いてみるが、老人はもう五十年もこの島にゐて、まだ井戸の水が湧き出すのを見ない。
鷹の井戸 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
一昨年初めて参詣した時には、墓の所在ありかが知れないので寺僧に頼んで案内してもらった。彼は品の好い若僧にゃくそうで、色々詳しく話してくれた。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白刃一閃、そこを藤吉、足を上げて蹴る、起きる、暗いから所在ありかもよくは解らないが、猛然と跳りかかったら、運よくかと抱きついた。
博士はかせ旅行たびをしたあとに、交際つきあひぎらひで、籠勝こもりがちな、夫人ふじん留守るすしたいへは、まだよひも、實際じつさいつたなか所在ありかるゝ山家やまがごとき、窓明まどあかり
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は情死の違約をどうして辯解すべきか、差詰めその方法に窮した結果、身の所在ありかを戀人の手前から隱して仕舞ふより仕樣がないと思つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しかも不思議なことに、警察のあらゆる努力にもかかわらず、賊の所在ありかは勿論、その素姓も、殺人の動機も一切合切いっさいがっさい不明であった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つまり、そんな具合で、間の悪い時だと、杉戸の所在ありかが分らなくなるものですから、こうして同じ孔をあけたやつを二つ作っておくのです。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
最後に不図思いだしたように言葉を付け加え「……だが、逃走した加害者の女の所在ありかが分ったら、そいつはすぐ報告を頼むよ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
輕氣球けいききゆううへでは、たちま吾等われら所在ありか見出みいだしたとへ、搖藍ゆれかごなかから誰人たれかの半身はんしんあらはれて、しろ手巾ハンカチーフが、みぎと、ひだりにフーラ/\とうごいた。
「黙れ、この近いところに米を売るようなところはあるまい、貴様は訴人そにんに出かけたな、我々の所在ありかを敵の討手へ知らせに行ったのであろう」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はその老僧の名と、山国谷に向う道をきくと、もはや八つ刻を過ぎていたにもかかわらず、必死の力を双脚に籠めて、敵の所在ありかへと急いだ。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三人つながって歩いていても無益であるから、各〻わかれて、自分は自分で武蔵の所在ありかをさがすから——と提議してみたが
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琵琶の音はすなわち大弐の所在ありかの手引きではないか、伊兵衛は茶室に沿って廻り、望翠楼の横手へと出た。絃音は明らかに閣上から聞えてくる。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さうして自分じぶん天地てんちそのはねを一ぱいひろげる。何處どこてもたゞふかみどりとざされたはやしなか彼等かれらうたこゑつてたがひ所在ありかつたりらせたりする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ここを以ちて今に至るまで、その子孫こども倭に上る日、かならずおのづからあしなへくなり。かれその老の所在ありかを能く見しめき。かれ其處そこ志米須しめす一〇といふ。
わたくしは保さんの所在ありかを捜すことと、この抜萃ばっすいを作ることとを外崎さんに頼んで置いて、諸陵寮の応接所を出た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
生きている人体の腹部をX光線で照らし写真を撮っても胃や腸を識別する事が出来ぬが、死後間もなく写して見ると明らかにこれらの臓腑の所在ありかがわかる。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今しがたまで見えた隣家の前栽せんざいも、蒼然そうぜんたる夜色にぬすまれて、そよ吹く小夜嵐さよあらしに立樹の所在ありかを知るほどのくらさ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして都会へ行きついた時雌雄の球の奇蹟によって古代回鶻ウイグル人の埋没した巨財の所在ありかを知ることが出来ると。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは呉一郎と瓜二つなのを利用して、真物ほんものの呉一郎に覚られないように絡み合って、奇抜巧妙な二人一役を演じながら所在ありかくらましていたものかも知れない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
取此所にも半年餘はんとしあまりも居て友次郎樣夫婦の所在ありかを尋ねしかども一向に知ず然るに或日あめふりて外へも出られねばむなしく宿屋に在し所宿の亭主の物語ものがたりにて此印籠を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此処ここでも、船頭は矢張容易に船を出さなかつた。待ちかねて爺さんが其所在ありかを尋ねに行つた。やがて『酒を飲んで酔ぱらつてゐやがる』かう言つて帰つて来た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
すると女の方では大変怒ってとうとう男の所在ありかを捜し当てて怒鳴どなみましたので男は手切金を出して手を切る談判を始めると、女はその金をゆかの上にたたきつけて
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「敵、久留馬登之助の所在ありかがわかりました。今夜、今すぐ名乘りかけて討ちたいと思ひますが——」
聲の所在ありかもとむる如く、キョロ/\と落着かぬ樣に目を働かせて、徑もなき木陰地こさぢの濕りを、智惠子は樹々の間を其方に拔け此方に潜る。夢見る人の足取とは是であらう。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一旦助けたからにゃア何うかして其の刀の所在ありかを詮議をして、刀を此の人へ戻して遣り、万年町のたなへ帰して遣りたいので、段々其の刀の事を聞いて見れば、大層名高なだけえものだから
彼はこの情緒のはげしく紛乱せるに際して、可煩わづらはしき満枝にまつはらるる苦悩に堪へざるを思へば、その帰去かへりさらん後まではして還らじと心を定めて、既に所在ありかを知られたる碁会所を立出たちいでしが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども天を見れば凧はもとの通りに揚っている。此は可笑しいと思って糸の所在ありかをたよりに教会の表側へ廻って見ると、乃公は喫驚してしまった。糸が塔に絡まって女の子は屋根に下っている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それはお梅の母親のお弓であった。お弓は伊右衛門に復讐するために、伊右衛門の所在ありかをさがしているところであった。お弓は卒塔婆を取りあげた。其の卒塔婆には俗名民谷伊右衛門と書いてあった。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
所在ありかなくさまよう詩人
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
博士はかせ旅行たびをしたあとに、交際つきあいぎらひで、籠勝こもりがちな、の夫人が留守した家は、まだよいも、実際つたの中に所在ありかるゝ山家やまがの如き、窓明まどあかり
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ははア、それはおめでたいことで——こけ猿の茶壺が、そうたやすく見つかって、大金の所在ありかも判明いたしたとは、祝着しゅうちゃく至極、お喜び申しあげる」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実を云うと、僕はまだ事件に現われて来ない、五芒星呪文の最後の一つ——地精コボルトの札の所在ありかを知っているのだがね
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのうち丁度わたくしが渋江氏の子孫を捜しはじめた頃、保さんのむすめ冬子ふゆこさんが病死した。それを保さんが姉に報じたので、勝久さんは弟の所在ありかを知った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夕陽は堤防の上下一面の枯草や枯蘆の深みへ差込み、いささかなる溜水たまりみず所在ありかをもあきらかに照し出すのみか、橋をわたる車と人と欄干の影とを、橋板の面に描き出す。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今日は鋭くとがった頂きは無論の事、切石を不揃ふそろいに畳み上げた胴中どうなかさえ所在ありかがまるで分らない。それかと思うところが、心持黒いようでもあるが、鐘のはまるで響かない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また求めに行った紛失物はかれの手に入っているのか、それともその所在ありかにあるのか否か。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すこしづつつた。南瓜たうなす晝間ひるまいてよるになるとそつとつるいて所在ありかさがすのである。甘藷さつまいもつちいてさがりにするのはこゝろせはぎるのでぐつとく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
止め日毎に新町道頓堀だうとんぼり或は順慶じゆんけい町の夜見世など人立多き所に行てはお花夫婦并に吾助が所在ありか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
頭髪とうはつひげものびっぱなしで、顔の中から出ているのは色の悪いソーセージのような大きな鼻だけだった。両眼りょうがん所在ありかは、煙色けむりいろのレンズの入った眼鏡にさえぎられて、よくは見えない。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして絵巻物を奪い去ったものは、自分から絵巻物の所在ありかを聞いたMかもしくは失恋のうらみを呑んでいるであろうWのどちらか、一人に相違ない事を、余りにも深く確信していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あの騒ぎの時、所在ありか判然はっきりしないのは、この御邸の方でたった二人ございます」
やはり土人達の唄を聞きまた土人達の伝説を聞いて宝庫の所在ありかに見当を付けて
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はやく、はやく、先方むかうでは吾等われら搜索さうさくしてるのだ、はやく、此方こなた所在ありからせろツ。』と、わたくしさけこゑしたに、武村兵曹たけむらへいそう二名にめい水兵すいへいとは、此時このとき數個すうこのこつてつた爆裂彈ばくれつだん一時いちじした。
此の眼病では迚も刀の詮議も仇敵の所在ありかも知れよう道理はない、世に捨てられた私の身の上、なまじいに[#「なまじいに」は底本では「なまじいに」]生恥いきはじを掻くよりもいっその事一思いに割腹して相果てようか
今ここに、柳生の大財産の所在ありかをしるした、御先祖の地図を取り出してみせるからな。早く小柄を持ってまいれと言うに。えいッ。何をしておるのだ!
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御苦労ごくらう御苦労ごくらうまこと御骨折ごほねをりけて誰方どなたにも相済あひすまん。が、御心配ごしんぱいにはおよばんのだ。——おきなさい、行衛ゆくゑれなかつた家内かないは、唯今たゞいま所在ありかわかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
怖れて終生逃げ廻っていたらしい。だから、後世になればなる程、その所在ありかが分らぬはずじゃ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
個人の住宅とほとんど区別のつかない、植込うえこみの突当りにある玄関から上ったので、勝手口、台所、帳場などの所在ありかは、すべて彼にとっての秘密と何のえらぶところもなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、わしはお礼をせずにはいられない。それにこのまま、わしが死んでしまえば、莫大ばくだいなる富の所在ありかく者がいなくなる。ぜひあんたにゆずりたい。あんたは、何という名前かの」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)